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エビネの自生地から学ぶ

日照の条件

エビネは日陰の植物だと思っていませんか? ジエビネやキエビネなどうす暗い山野の林床でも多く見られました。しかしよく観察してみると、山奥などでうす暗い樹林下に生えているエビネのほとんどは株がやせていて弱々しく株は多くあるけれども開花しているものはわずかでした。一方、人間が昔から住んでいる周囲では、生活のために樹木の伐採などが頻繁に行われたり、田畑を造るために開こんが行われたり、人々が往来するために、山道が造られるなど、その他の理由でまったくの自然とは異なる自然、いわゆる里山という状態が形成されています。このような場所では、林床にまで、日光が差し込むような、明るい野山となっています。そこに自生しているエビネの多くは葉肉は厚めでたくさんの花を咲かせた元気な株があちこちで見られました。例えば神社に通じる山道のまわり、田んぼやあぜ道または畑に隣接する雑木林、過去に伐採がおこなわれその後植林されたと思われる杉山や松林、山仕事で利用される林道ぞいなど、明るい場所です。

このようなことからエビネは暗い場所でも生きられますが、必ずしも暗い場所を好んでいるわけではないことがわかります。栽培する時でも同様な事がいえ、暗い場所で育てるよりは葉が若干黄色味を帯びる程度に明るい場所の方が生育は旺盛となり、比較的短い期間で芽数の多い大株に育ちます。但し、葉が褐色に焼けてしまうような強光は生育に悪影響を及ぼすので注意します。エビネが好む環境を見つけて栽培することで、殆ど手をかけなくても、毎年たくさんの花を咲かせてくれます。

昔から寒蘭などの東洋蘭の栽培が盛んに行われていた地域では、エビネでも同様な観賞方法が好ましいと考えられ、侘び寂びという言葉で表現されることがよくあります。この地域では花色や咲き方だけでなく、植木鉢や葉姿を含めて日本的な見方が良しとする観賞方法が定着しています。この場合、日光を抑えたやや暗めの場所で栽培することで、葉焼けを防ぎ、害虫の発生も少なくなるため、葉もきれいに保つ事ができます。エビネは葉に直接あたる光の量だけでなく、株元が明るくなることで花が咲きやすくなる性質があります。東洋蘭的あるいは山野草として葉も綺麗に作りたい方は鉢と鉢との間隔をとると、明るさを控えた場所でも育てられます。観賞方法や目的の違いによって日光の当て方が変わってきます。

土の条件

エビネは1日中強い光が当たる場所や、乾燥の激しい場所以外の野山の林床に自生しています。

腐葉土の多い場所に自生していると言われていますが、実際には自生地の土壌の条件はさまざまで種類によりかなり異なります。例えば、ジエビネやキエビネなどは、落ち葉が多く腐植に富むなだらかな傾面や、平坦地に多く見られ、場合によっては常に水がしみ出るような湿った場所でも自生が見られます。これに対してキリシマエビネでは急斜面の上部に位置する尾根付近や風がよく通る谷間などの涼しい場所に多く見られ、小石や岩が多くあり、栄養分が少ないと思われるような場所でも平気に自生しています。

またニオイエビネ系の種類では、朝夕の海風、山風が吹き抜けるような小石の多い谷間や地面に転がる巨岩の間から涼しい風が吹き出してくるような起伏に富んだ場所で、岩上や砂地などに下草とともに自生が見られました。場所によっては地生というよりもあたかも岩の上に生えているつまり着生に近い様子も見られました。

またサルメンエビネは積雪の多い地方に多く見られ、水がしたたり出る沢沿いの傾面や、苔むした岩があちらこちらに点在するようなかなり涼しい場所に多く、上方の樹々の葉がまだ生い茂る前 (6月頃) に開花していました。しゃくなげなどやや高山性の植物と同じ場所に自生していることもよくあります。

このように一言でエビネといっても種類によってまた地域によって自生地の土壌条件は様々です。世間でよく言われるように腐葉土の多い場所に自生しているというのは、部分的な姿で全部ではありません。たぶんジエビネやキエビネまた一部のサルメンエビネの自生地を知っている人達が感じた事であり、これが正確な自生の姿ではありません。

現在日本で栽培されているエビネの多くは記した5種類の原種及び自然雑種、あるいはそれらが基となり人工的に交配して作り出されたものです。このため外観 (容姿) だけではなく耐暑耐寒性他、その他の性質も原種から引き継がれています。このため栽培に適した環境やその他の条件も系統や個体により違い、全部の種類を同じ条件で栽培するにはムリがあります。

根と葉の関係

夏の暑さが苦手なサルメンエビネなど、都市部周辺での栽培が難しい事は多くの人に知られています。この他にもキリシマエビネやニオイエビネなど比較的温暖な地方に自生する種類でも上手に作るのが難しいと言われているのはなぜでしょう? これらは他の種類に比べて少し気むずかしいところがあり、育てにくいのは事実ですが私の栽培では問題がなく育つ事を考えると単に弱いだけでなく、その性質を理解していないために行われているムリな栽培方法にも原因があるようです。

葉の枚数と根の量が生育に与える影響

ジエビネ、キエビネ、サルメンエビネなどでは一個のバルブから発生する葉の数は通常3~5枚と多く、それにともない根の数も多くなるのが普通です。このため、土壌中 (根) の養分吸収が効率よく行われると思われ、生きた葉を長い間保ち続けなくても、バルブの充実が短期間に行われ、りっぱな新芽を作ることができます。これに対し、ニオイエビネやキリシマエビネなどは一個のバルブがもつ葉の数は、通常2枚程度で根数も少ないのが普通です。このため根数の多い種類に比べ、養分を吸収する能力は低いと考えられます。

自生地では長年 (3~6年) もの間、葉を生きたまま残し、多くの根が活動している状態を保つことで必要な養分吸収が行われ、生育を維持していると考えられます。

生きた葉と根の伸長は連動している?

一般的にはほとんど知られていませんが、エビネの場合、根と葉の間にはかなり密接な関係があり、生きた葉を持つバルブから生じた根の先端は伸長を続けています。反対に植替や水のやり過ぎなどで根先を傷めてしまうとその後、葉の先から枯れがすすみやがては葉全体をなくしてしまうこともよくあります。

ニオイエビネやキリシマエビネなど、もともと一個のバルブから生じる根数が少ない種類は何年分もの葉を健全に保つ事で多くの根が活動し養分吸収も順調に行われます。このためなるべく水分が停滞しないように水はけの良い用土で植え付けるとともに、植え替えの間隔を長くしバックバルブも他の種類より多く残しておくことで根に与える負担が小さくなり比較的簡単に育てる事ができます。

エビネの多くは生きた葉を長い間残すことで活動する根数が多くなり、養水分吸収が促され結果、上手に育てることができるのです。

想像よりも涼しい自生地の夏

冷涼地に自生するサルメンエビネやキンセイラン (エビネ) などは夏の暑さのため都会での栽培が難しいことはよく知られています。これ以外でもニオイエビネやキリシマエビネなど東京よりもかなり南に自生する種類でも上手に育てられないのはなぜでしょうか?

その理由のひとつとして夏期の高温があります。上記2種類の他、トクノシマエビネ、アマミエビネ、オナガエビネなども関東地方よりもかなり南に自生しています。自生地を見たことがない方たちは南海の島々に生えているエビネは暑さにも強いだろうと思うのが普通でしょう。残念ながらこれは違います。例えばニオイエビネ系のエビネでは山中に転がる巨岩のすき間から常に涼風が吹き出すような場所や、朝夕の海風、山風が吹きぬけるような谷間などで多くの自生が見られました。またキリシマエビネも斜面上部の尾根付近や風通しがよく涼しい谷間などに多く自生していました。このような場所は夏期でも、日中の気温は低く冷涼で時として肌寒いくらいです。この他にアマミエビネやトクノシマエビネなども比較的高所の夜間に霧が発生するような涼しい場所で多く見られます。低所に生えている場合は、まわりの樹木やコケ・シダ類などとうまくバランスをとるようにして涼しい環境の中に自生しています。

このようにほとんどの種類、エビネ (ジエビネ、キエビネをのぞく) の多くはみなさんが想像するよりもかなり涼しい場所に自生しています。残念ながら都市部周辺の夏期は自生地のように涼しくはなく、夜になっても気温が下がらない日が続きます。日中はあるていどは仕方がないにしても夜間まで続く高温は体力を消耗させ、りっぱな花芽を作ることができなくなります。夜になっても寝苦しいくらいの高温が続く場合は、夕方から夜間にかけて株への葉水や作場周辺の打ち水などをし、株温を低くすることが上手に育てるポイントです。


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