エビネパラダイス新島

コオズ !コオズ !コオズ !コオズエビネのパラダイス新島

私が小学生の時に発行された「エビネとその仲間」という本の中には伊豆七島、新島のエビネ自生地の様子が詳しく書かれていました。高校生になり三宅、御蔵、八丈へは何度も行きましたが、利島、新島、式根島、神津島は航路が別なため航行する船の中から島影を眺めながら、いつかあの島々へもエビネを探しに行きたいと強く思いました。 そしてついに…。

新島の位置

約40年前のことです。東京竹芝桟橋を前夜、出港した椿丸?は途中大島を経由し翌朝には新島黒根港へ入港しました。着岸するとすぐに地図を片手に本に記されていた島の南部の自生地へと向かいました。港から2時間ほど歩き、砕けた抗火石でできた曲がりくねった坂道を登りきると、道は平らになり右手の方向からは石を採掘する大きな音が聞こえてきます。私たちは常緑広葉樹の林を切り開くように作られた山道をしばらく進むと進行方向左手の山の中へと続く細道を見つけ、そこから森の中へと入りました。 そこには炭焼きや井戸の跡でしょうか?だいぶ昔に人の手が加えられたような形跡があちこちに見られました。実はこの時の私たちはすでにかなりの興奮状態でした。山の中はエビネだらけ!あっちもこっちもエビネエビネエビネ…あるは、あるは、いっぱいある!しかもそのほとんどがジエビネよりもつやがある大きな葉をした株だったのです。

その後、私はこの島のコオズ系エビネのとりこになり綺麗な花を探すため、その後いく度もこの場所を訪れました。これまで日本中のあちこちを歩き回りたくさんのエビネの自生地を見てきた私ですが、ここの自生のように高密度でなおかつ広い範囲におよぶ場所は他では見たことがありません。新島南部の山中は小さな山と谷が入り組んで起伏に富む林の中に、シダ類等の下草とともにたくさんのエビネが自生していました。 私が訪れていた40年くらい前の様子ではコオズ系と呼ばれる雑種群を中心に10万本以上の株が自生していたのではないかと推測されます。南部の山奥の限られた範囲には抗火石の巨岩が転がる場所があり、巨岩の隙間から涼しい風が吹きだし、その近くには、強い香りを放つ濃紫色やローズピンク系等、照葉の個体がたくさん見られました。新島産ニオイエビネタイプの集団です。そのほとんどが御蔵島産のニオイエビネに比べると花弁のよれが少なく唇弁もふくよかで優れた個体群でした。 しかし残念なことに性質が弱く作りこなせる人がいなかったのか?そのほとんどが山から採取された後も長く育てられた人は少なくほとんど枯らしてしまったのではと推測されます。昭和の終わり頃に私がフラスコに播種して作った1000本程度の苗の生き残りと思われる形の良い個体はニオイエビネの良花として現在も流通しているようです。


コラム筆者: 山本裕之

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