日本に自生するバンダ? ニュウメンラン

ニュウメンラン(Trichoglottis luchuensis 別名:Trichoglottis ionosma)

私は中学生の頃には近くにある農園の高木浩二郎氏の指導のもと、自宅庭に建ててもらった自分専用の4坪のガラス温室でカトレア・デンドロビュ―ムなどの洋ランを趣味で育てていました。しかし大学に入る頃にはカトレアなど改良された洋ランはすっかり飽きてしまい、代わりに小学生の頃から自然の中で目にしてきた野生ランに対する興味がより増していきました。そして大学入学後は、まだ見たことがない野生ランを探し求めて南の島々を命がけでとことん歩きまわる大冒険をすることになったのです。

そんなわけで以前から洋ランを育てていた私は日本にありながらもバンダによく似た姿をしたトリコグロティス=ニュウメンランに対するあこがれは特に強いものがありました。

ある日のこと、小さい頃からお世話になっている高木浩二郎氏が学生の時にサトウキビ刈りの実習で八重山に行ったときにそこで耳にした話としてニュウメンランが自生する山の名前を教えてくれました。 そこは過去にたくさんのランの自生地を見てきた私でも予想もしていない意外な場所でした。それを聞いた瞬間、私の心は熱く燃えあがり「いつか絶対にみつけてやる!」という思いにかきたてられた事を今でもはっきりと覚えています。

目的地は八重山 今回の宝探しのターゲットはニュウメンラン

この時のメンバーは南條君、山崎君と私の3人です。八重山へ着いて2週間が過ぎた頃、西尾君と入れ替わるようにして山崎君がやってきました。ある日のこと、私たち3人はグチャグチャにぬかるんだラテライトの林道を進み、山中へと向かい、2時間ほど歩いたところで大型のナンバンナンギンソウが数株目にとまりました。 そこから谷を越え、尾根を越え、再び谷を渡り、次の尾根を上へと進み探し歩くこと2時間あまりが経った頃です。 地上7~8メートルくらいでしょうか。樹冠に近い腕くらいの太さの枝に着生するニュウメンランを発見。「ニュウメンラン!」と大声をあげたその直後、私の体は今にも折れてしまいそうな細い枝先にありました。よく見るとそのランが自生する様子は私が過去に見てきた他の着生ランたちとはかなり違っていました。 それというのも直径5~6センチとこんなにも細い枝に大型の着生種であるニュウメンランが1株だけ単独で着生しているとは想像もしていなかったからです。まわりを見回すと、となりの樹にもまたポツリと1株だけ、その近くでも同様に枝の先の方に点々と1株ずつ着生していました。これを見て、私はニュウメンランは日当たりの良い枝の先の方に着生するランなのか?と思いました。

ニュウメンラン-自生地の様子

八重山諸島以南(以西)の樹上に着生するラン科の植物です。私が過去に見た日本の自生地では着生している位置や周囲の環境にもよりますが開花株の草丈(花茎を除く)はおおむね10~30センチ程度で、30センチを超えるような大きなものはほとんど見られません。 葉の数は多くても10枚程度です。これに対し八重山地方の平地で栽培されているものは節間が長く、それよりもかなり大きいものが多く山に自生している姿とはかなり違います。これらが過去に地元の山から採取されたものなのかまったく別の場所から持ち込まれたものなのかはわかりません。人間が栽培することで草丈がつまり、節間が短くなるのならば理解できるのですが、逆に節間が長くあき、草丈も異常なくらい伸びるという事がどうも不思議です。条件が良いために大きく成長したとも考えられます。栽培株に関しては他産地のものと混在していることが予想されます。

自生地では樹々がうっそうと生い茂る中にありながらもうす暗い場所ではなく日が良くあたる太い枝や、かなり高い位置の細い枝先に近いところまで着生が見られました。自生地は空中湿度がかなり高いこともあって、葉には地衣類などが付着し汚れた姿で自生しています。

私が3度目に八重山を訪れた時のことです。 ある山へと通じる尾根筋で、沢の上へと張り出した地上5メートル位の高さの日が良くあたる直径20センチくらいの横枝に30株くらいが林立するように着生する姿をみました。 しかし4度目に訪れた時にはいくら探してもその場所を見つけることができません。当時その枝は半分枯れかけていたことから推測すると朽ちて枝ごと落ちてしまったのか。誰かが全部採ってしまったのか、あるいは単にその場所に到達できなかっただけなのか?いずれにしてもここでみつけた約30個体を含めても私が見た数は100個体にもみたないことから考えると、現在ではみつけることはかなり難しいことが予想できるランです。 私はいずれ彼らに会いに行こうと思っています。当時の仲間たち、学生時代を思い出し一緒に行こうよ………。連絡待ってます。

沖縄県産 イリオモテラン(Staurochilus) 岩嶋様栽培品
沖縄県産 イリオモテラン(Staurochilus) 岩嶋様栽培品

コラム筆者:山本裕之

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