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幻のランを求めて タネガシマシコウラン編

タネガシマシコウラン(Bulbophyllum macraei var.tanegashimense 別名:C.uraiense var. tanegashimense)

タネガシマシコウランについて正宗博士はご自身の著書で、鹿児島県の種子島および屋久島に自生し、花色は紫色で側萼片は短く、葉も丸く厚みがあることなどの特徴から Cirrhopetalum tanegashimense として写真をそえて解説しています。のちに前川先生がシコウランの地方変異型、Cirrhopetalum uraiense var. tanegashimense として原色日本のランで取り上げています。

今から40年近く前、大学在学中のある日、野生ラン研究会の仲間の一人が、前述の正宗先生の本をどこからか持ってきました。それによると側萼片が短く、紫色の花を咲かせるシコウランがかつて屋久島・種子島で発見されていて和名をタネガシマシコウランと名付けたと書いてありました。この資料を見た途端、私の脳裏には憧れの紫色の幻の着生ラン = Cirrhopetalum tanegashimense として焼き付いてしまい、居ても立ってもいられなくなったことを覚えています。

タネガシマシコウランは当時羽根井氏に聞いた話では「種子島の広く開けた場所 (記憶では牧場でした) の裏山の尾根に近い岩場に数株が着生した状態で発見されたが、その後の大きな台風で絶滅してしまった」と採取した人が話していた。と教えてくれました。

憧れのタネガシマシコウランを探し求め、一人屋久島へ
〜タネガシマシコウラン 私の発見記〜

私がまだ学生だったときのことです。野生ラン研究会の仲間達に「明日からちょいと屋久島へ行ってくる。タネガシマシコウランを見つけるまでは帰ってこないから、あとはよろしくたのむね!」と告げ、川崎からフェリーにバイクを積み一人屋久島へ向け出発しました。

当時の自分について今振り返ってみると、無謀な事を平気で行う命知らずの若者であったとつくづく思います。

その時私が考えたことはこうでした。「屋久島にある樹木を一本残らずすべて確認すれば、もしまだあるのならば必ず見つけることができる。」そして実際に私はタネガシマシコウランを絶対に見つけてくる、という覚悟をして島へ出かけました。

屋久島につくと、あらかじめ地図上であたりをつけていた谷へ直行しました。そしてすぐに着生ランがありそうな樹木をかたっぱしから調べ始めました。タネガシマシコウランを探し始めてから2〜3時間、数百本の木を確認したころ、地面から10m位まで下枝がまったく無い電柱のようにまっすぐ伸びた木を見つけました。樹上を見上げると下から8〜9mくらいのところにタネガシマシコウランらしきかたまりがあるのを発見しました。

ワクワクしながらも、この時点ではあまりに高すぎてランなのか、近くにたくさん見られるサクララン (ホヤ) の葉なのか確認することができませんでした。しかし内心「あれはタネガシマシコウランに間違いない!」と直感していました。同時に胸の高鳴りを抑えることができず、すぐさまリュックサックを放り投げ、くつ、靴下を脱ぎすてるとその木にしがみつき登り始めました(このとき足下に今まで見たことがない地生ランを見つけたのですがこの瞬間は気にもとめませんでした)。はたから見ればこの時の私の姿はまるで猿のように見えたでしょう。6〜7mのところまで一心不乱に登り、一息つくようにして上を見上げるとそこにはまぎれもなく夢にまで見たタネガシマシコウランの姿があったのです。

そこから更に上へと登りやっとの思いで下枝にたどり着くと、なんと目の前にはたくさん (20個体くらい) のタネガシマシコウランの姿がありました。全身の血が騒ぎ気がつくと山中には私の言葉にもならない声がこだましていました。あの時の興奮は今でも昨日のことのように覚えています。

この時、たくさんのタネガシマシコウランを見つけてひとつ気づいたことがあります。それは文献に特徴として記されているような厚くて丸い葉をもつ個体はひとつも見つからず、ここで見つけた全ての個体が奄美大島以南の川沿いなどでよく見られるような大型の葉をもつ普通のシコウランとほぼ同じ草姿をしていました。当然のことながら世間で一般に言われているタネガシマシコウランとは全く異なるものでした。この理由に関しては私の見解を別のところで解説することにします。 *1)

その後もしばらくタネガシマシコウランを眺め、木から降り靴を履こうとしたとき、先ほど脱ぎすてた靴下のそばに、今までに見たことがない地生ランがあったことを思い出しました。あらためて周囲を見回してみると、この見たことがない新種らしきランを10株程度見つけることができました。

実はこれこそが屋久島南部で再発見されたヒメクリソラン (?) なのです。なんと私はこの時、それまで幻と言われていたランを2種類同時に見つけてしまったのです。まさしく奇跡が起きた瞬間だと私は今でも感じています。

卒業して数年後、農大の学生達と屋久島を訪れた時のことです。リュウキュウエビネの開花を横目に見て、しばらく歩いたところで再びタネガシマシコウランに出会うことができました。以前発見した場所からは20km程度離れている場所です。比較的日当たりが良い木々の幹や枝など、わりと広い範囲にわたり何本もの木々に点々と着生していました。 ここで見つけた個体は記載のとおり、葉肉は厚く丸い葉をもつ小ぶりの株で開花している株の全てが、花色が黄色もしくは紫色が強くあらわれる個体でした。まさしく世間一般で知られている典型的なタネガシマシコウランそのものでした。

どこか写真が撮りやすい場所はないかと近くの木々を探しまわると、ちょうど上方にチケイランの大株がいくつかついている太木が目にとまりました。その木には枝の先までコケが生えていて、いかにもタネガシマシコウランも見つかりそうな雰囲気をしていました。私はなんの迷いもなくそこへ巻き付いている太いツルをつたわり地上5〜6mの高さまで登りました。その時です。足下にある木の洞の中からスズメバチの大群が突然飛び出してきて頭を中心にして私の身体中にまとわりついてしまったのです。木から飛び降りるようにしてやつらを払いながら逃げたのですが、最終的には頭部と腕で合わせて5か所ほど刺されてしまいました。命からがら下山し、その後しばらく車中で寝込んでしまいました。そういうわけで残念ですが開花写真が撮れませんでした。それ以来この場を再び訪れる機会も未だありませんが、近いうちに同志を集めてまた彼らに会いにいこうと考えています。

*1) シコウランとタネガシマシコウランとの比較

タネガシマシコウランの実物を見た人は少なく、ましてやその自生地の様子を見た人はほとんどいないのではないかと考えられます。また残念ですがインターネット上でタネガシマシコウランとして写真があげられているものは私が見た範囲ではすべて奄美大島より南に自生している普通のシコウラン (Bulbophyllum macraei) でした。

数十年もの間、正確な情報がおもてにでることはなく、今後もタネガシマシコウランについて詳しく伝えられることはないであろうと考えられるため、私が過去に見た範囲の事柄をありのままに記します。

タネガシマシコウラン (屋久島産) 特徴

  • 側萼片
    奄美大島以南に自生するシコウランに比較して、側萼片は短く、個体によりおおよそ半分程度からやや長めのものまで差異が見られる。しかし他産地のシコウランと同等の長さに達する個体は見あたらない。
  • 花色
    開花を確認したすべての個体が通常のシコウランに比べ濃く発色する。このため、側萼片の内側では黄色味を強く呈し、外側も同様に紫色が強くあらわれる。したがって個体により濃淡の差はあるものの側萼片の内側は濃い黄色。外側は淡紫色からやや濃いめの紫色となる。
  • 葉の形状
    日が当たる枝先など、明るい場所に自生するものでは、肉厚で丸みをもつ中小型となり、空中湿度が高い樹木が茂る場所に自生しているものは、奄美大島以南の川の側などに見られるタイプと同様に中大型で葉は大きく葉肉も普通となり、それらとの差異はみられない。

このようなことから、私がみた範囲では普通のシコウランに比べ側萼片が短く、花色が強くあらわれることがタネガシマシコウランの最大の特徴であり、葉の形状 (厚み・形) は通常のシコウランと同様で区別することは難しい。肉厚で丸みがあるのが特徴とされていたのは、発見された場所の環境によるものが大きく、種として特有なものではないと考えられる。


幻のランを求めて ヒメクリソラン編

幻のランを求めて マツゲカヤラン編

コラム筆者:山本裕之

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