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本当にあった怖い話[10] ヒトツボクロと墓の話 文:廣川浩二

大学生の頃、同じ学年の関君と房総のジエビネを見に行くことになりました。 余談ではありますが、現在関君は大学卒業後サカタ種苗に入社しカラーピーマンのセニョリータを始め、数多くの品種を作り上げた優秀な育種家でもあります。当時も真面目でその後九州の鹿児島までエビネを見に電車で行ったことがあります。彼が昭和53年 ウチョウラン探索記にて書いていますが、二人で栃木県のウチョウランを見に行き、ウチョウランをはじめセッコクなどの大群落をみつけ感動したこともあり、良い思い出となっています。

さて、その日は朝早く国鉄で木更津まで行き、そこから地方のローカル線で房総半島中ほどにある養老渓谷へと向かいました。このあたりに来るのは初めてで、どこに何があるのか全くわからない探索であり、駅近くの農道から山中に入りました。当時、ジエビネは人里近い山の谷に大群落で生えていたことを憶えています。 しばらく歩いていると、草の中に隠れていた小さな墓石を、気づかずにまたいでしまいました。それから5~10分経った頃、いつの間にか関君が見当たらないことに気が付きました。大声で呼んでみましたが彼の返事は無く、不思議に思いましたが、そのうちに会えると思い先に進みました。 やがて、いくつかのジエビネの群落を見た頃には、すっかり薄暗くなってしまいました。急いで林道に出た時、ヒトツボクロがススキの間から見えました。開花期以外はまるでホテイランのような葉を持ち、花は小さく寂しいものですが個人的には好きなランです。その林道の奥を見ると、相当な数のヒトツボクロが群棲していました。千葉県では2~5株ぐらいの単位では見たことはありますが、このような数は初めて見ました。相当良い環境だったのでしょう。良いものを見たと思い山を降りていきました。

あたりはもう夕暮れ時です。山から開けた田んぼに出た時、最初に入った山すそが200mぐらい先に見えてほっとしました。田んぼの1本道を向かう途中、もう一本山すその奥に林道があり、そこからおばあさんが降りてきました。身なりは古い野良着で、右足が悪いらしく木の杖をついてこちらに向かってきます。一本道の田んぼの真ん中で会釈しすれ違った時、その痛々しい姿を見て送っていこうと思い、すぐに振り向いて声をかけました。そこにおばあさんの姿はありませんでした。しかし何故か恐ろしさは感じませんでした。関君と山に入った時、墓をまたいでしまったことをふと思い出したからです。おばあさんがいるかもしれないと降りてきた山道を戻ると、そこにも墓があり、線香と菊が供えてありました。私は手を合わせ拝んでその場を立ち去りました。

それ以降、私は山に入りお墓に出くわした時は手を合わせて迂回しています。あのおばあさんは何か礼儀のようなものを私に教えてくれたのかもしれません。 ヒトツボクロを見ると何故かあのおばあさんの顔が浮かびます。不思議な体験でした。 ところで東京に戻りすぐ関君に連絡をとってみると、彼は私が見えなくなると同時に不気味さを感じ、すぐ山を降り一人で帰ったそうです。霊感のない鈍感な私は不思議な体験ができて良かったのか悪かったのか?たぶん良かったと思います。


イラスト:M.Tajima

コラム筆者:廣川浩二

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