「丘蒸気」中央高速を行く 文:小川豊明

長野の山村で衝突 蘭探しもつらいのよ の巻 1984年10月

*農大野生蘭研究会の仲間では、良く山へ行って冒険をし、体で環境をマスターしている者。 *なかなか山へは行けないがでもランが好き。 *図鑑暗記型で、知識だけは充分の者。 *山草会に所属し、人づてに栽培テクニックを聞きマスターしている者。 *デパート採取の買いあさりタイプの者。

様々なタイプの会員がおりました。そんな仲間達ではありましたが、誰もが一途な山への憧れを持っていました。その頃Y氏は、時折会室に来ては、「そんなのじゃつまんないでしょ!実際に山でランを見なくちゃ!」と言っておりました。それで、ウチョウランが見られるところがある、群馬県に行ってみないか!と言う事になりました。「山行きの行動は早く」がモットーの私達は、その週の土・日に軽井沢方面に行きました。

朝7時30分世田谷の大学を出発。この頃Y氏の愛車はシビックの初期型で、当然中古、大人5人がギュウギュウに乗ってのドライブはチト厳しい物でした、車内は久方ぶりに山に行く人もいて、新鮮な雰囲気につつまれていました。途中、釜飯で有名なドライブインによりいざ山へ、ところが山に着くと大雨、普段なら歩いて見て回れるのですが、今や森の中はグチャグチャで、旅館の周辺だけに留め、温泉三昧となりました。

翌日、天候は晴れ、昨日いけなかった山へ行きましたが、落石の危険があり、なおかつドロドロ状態の悪条件なので、道ばたの岩に着いたウチョウランを見て撤収しました。企画したY氏申し訳ないと思ったか、それならと八ヶ岳方面に行こう!と提案。以前トキソウ・サワラン・アツモリソウ・・・を見た事があると言う湿地を目指す事になりました。ところが目的地近くまで行ってみると、開発の為道が変わったか?はたまた年をとって忘れてしまったのか? Y氏なかなか場所が思い出せません。道は狭く、どの道が本通りかわかりません。小さな集落を走っていると、左側に精米所がありました、そして前から軽トラックのおばちゃん、その精米所をずっと見つめながらこっちに走って来ました。 危ない!!Y氏は車を止めましたが、次の瞬間 バヲゴオン!!ブシュー!車は衝突 軽トラのおばさんと目が合い、おばさんすみませんとばかりコックリするのが見えました。こうなると旅行どころではありません。

軽トラと衝突

駐在さんを呼び、事情聴取。この時、車からは、冷却水がだだ漏れで、これじゃ帰れないねぇと思ったところ。Y氏の凄いところ?!近くにあったガソリンスタンドで石油のポリタンを買ってきて、水を満タンに、ラジエーターに給水すると、さあ帰るぞ!乗れ!はっきり言って車の前面はちょうど真ん中が大きく凹んで、ボンネットは、くの字に曲がり、というか大破していて、誰が見ても電柱にでも自爆したような壊れ方、みんなこれで帰るの?と思いましたが。それで帰るしか有りません。ぴちょぴちょいわせながらの逃避行。田舎道を走っているうちは良いのですが、信号待ちをすると車さん恥ずかしいのか水温計が上がってきます。周りの目があるのでこちらも暑くなります。ちょっと広くなっている所で給水タイム、ジッジューッツと水を入れます。それと、高速道路に入るとき、料金所のおじさんに大丈夫?と言われましたが、Y氏「ハーイイ」とスルー!さすがです。中央高速は長野方面から東京に向かうと、甲府まで下り坂と、そこまでは問題なく来ましたが、そこからの峠越えは厳しかったのを覚えています。パーキングのたびに補水し、笹子トンネル内で、「やばいっ」と言われたときは冷や汗モンでした。長いトンネルを抜け、もんもんのボンネットを開けてポリタンから水を入れていると、外人さんの乗った観光バスからまでクレイジーと笑われてしまいました。その後も走っては水の繰り返しで何とか世田谷まで帰ってきましたが。Y氏疲労困憊、首都高渋滞で一巻の終わりになるとかいって、夜暗くなるまで那須先輩のアパートで待機。夜、車がいなくなる頃合いを見計らって千葉まで帰っていったそうです。それにしても日本の車はたいした物です。そしてY氏の車は翌日廃車になったそうで、いよいよポンコツ号タウンエースへと引き継がれていきます。

左より檜山、那須、山本、小川 軽井沢にて

イラスト:M.Tajima

コラム筆者:小川豊明

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