またまた来たぜ 屋久島 文:小川豊明

1984年8月

私が大学2年生の時だったと思います。1年後輩の菊山君から、屋久島へ行く話を持ちかけられました。1年生が屋久島?と思っていると、やっぱりね!昨日千葉の山本さんから電話があり、「島へ行こう」と誘われたそうで、「小川達にも伝えてくれ・・・」との事。やられました、いつもなら私のところに「暇か・・・」と来るはずなのに、頻繁に山へ行く物だから、別の手を使っていました。でも誘われたらNO!と言えない私です。同級生の今田君も誘って4名で屋久島へ行く事になりました。

8月の2日だったと思います。いつものようにY氏の茶色のポンコツ号タウンエースに乗り込んで全行程交代で運転をし、千葉から大阪へ、そして中国縦貫道経由、九州自動車道の終点八代までずっと高速をひた走りました。Y氏がほとんど運転担当、私はちょっぴり。今田君と菊山君は免許が無いとかでお客さん。私が運転していた関ヶ原では、前が見えないくらいの大雨で、先行車のテールランプだけが頼りで、とても怖い体験をしました。3人は大いびきで寝ていて、声をかけても起きません。ピンチでした。そして何より脳裏にこびり付いているのが、2本しか持って行かなかったカセットテープ、Y氏のお気に入りだったのか?ピンクレディーのジパングと中島みゆきのファイト30年たった今でもはっきりと覚えています。洗脳です!!

中国縦貫道、九州自動車道はまだほとんどの区間で単車線の対面交通。高速のトンネルは怖かったです。ちなみにポンコツ号にはゴム磁石の若葉マークが輝いていました。 鹿児島港ではおきまりコースの野宿です。城山公園の大楠にはボウラン・キバナノセッコクがたくさん着生していました。

2日目 朝一の「フェリー屋久島」で宮之浦港へ、早速上陸です。島の商店で缶詰やキムチの素、キャベツなど買い込んでいると、お店のおばさん「あんたら山に登ぼるのかね?気を付けなよ、なぁに!千葉から来たの?」とポンコツ号を見て喜んでおりました。その頃は島まで、他府県ナンバーの車なんて来なかったのでしょう。 第一の目的地は、モッチョム岳南東のオトコニタという谷。麓の林道に車を止め、早速死の行進。いきなりはキツイ!谷川沿いを、歩道橋の階段よろしく急な山を約90分。周りも見ずに登坂です。一息ついたところで、四方に分かれて散策です。 林床にはトクサラン・ツルラン・ナギラン・ヒメトケンラン・ヤクシマラン・葉のやたらに大きなミヤマウズラ・ヤクシマシュスラン・スズフリエビネ・ダルマエビネが見られ。岩や樹木には、ミヤマムギラン・マメズタラン・ムギラン・オサラン・キバナノセッコク・オオオサラン・ヨウラクラン・セッコクが有りました。大学の収穫祭で写真展を行うべく写真を撮りまくりました。

3日目 昨日の谷の隣の谷オナゴニタへこちらの谷は比較的明るく斜面も緩やかで、ツルランがたくさんありました。おおきな尾根に上がると赤紫色の花茎の細いリュウキュウエビネが何株か開花中で、斜面を下るにつれて、花色の薄いユウヅルエビネ(ツルラン×リュウキュウエビネの自然交配種)がひそかに咲いていました。山の中で薄い桃色の花に出会えると、何ともいえない気持ちになります。きれいでした。 ここでお待ちかね、事件です。今田君、色のついたエビネを見つけ、夢中で走り寄ったところ、エビネの葉っぱに大きなアシナガバチの巣があり、もう大変!!ヒエーッ ガァーっと叫び声が山にこだましていました。あちこち刺されて、ぐったり。「熱でるぞ」とY氏早く山を降りようと言う事になり、はやばや下山。そして早めの夕食。川で水浴びです。

4日目 今田君の体調があまり良くないらしいので、車で安房(あんぼう)へ、そこから登山道?林道?に入り、小杉谷・屋久杉ランドへ標高1000mを超えるところまで、ポンコツ号で行き、縄文杉・大王杉などを見て回りました。まだ自然遺産になる25年も前の事です。ハイキングコースを登っていくと、高層湿原 花之江河 ここは信じられないくらい神秘的な湿地で、ミズゴケやウメバチソウ・モウセンゴケ・ミズトンボ・ヤクシマシャクナゲ・・・が生育していました。水面とコケのじゅうたん、立ち枯れた杉の大木、流れてくる霧、それと周りの山々。大自然です。南の島なのにとにかく寒い。寒い。 この日の夜、尾之間の温泉に行き、足下から湧いてくる湯につかり、湯船の底一面にひいてある漬け物石のような大きな石を、足で転がして疲れを癒しました。

5日目 モッチョム登頂!再び。昨年の夏に一度チャレンジした山ですが、その時は勉強不足で、ツリシュスランの写真を取りはぐれ、再チャレンジです。駐車場からは知っているはずの階段状の根っこ坂、死ぬ気で登って40分ようやくなだらかな斜面まで登ってきます、実際、千尋の滝の上部位の高さですがここまでが何より大変なところです。しかしこの部分にはヒメトケンランが群生しているところでもあります。 しばらく進んでいくと大きな杉が見え隠れしてきます。屋久杉です。木の上の方によく見るとツリシュスランと思われるものが確認できるようになり、写真の撮れそうな株を探します。ツリシュスランとはよく言った物で、シュスランは一般には地面に生育している物ですが、コイツは着生種、木の上部コケに絡まるようにぶら下がっています。それも必ず大きな木に限ります。猿でもてなづけなくてはだめなようです。万代杉・モッチョム太郎杉、ルートは違いますが、直登コース沿いにはモッチョム花子杉という大杉があります。ここいらで最後の水場(沢)があり、水の確保、近くにはカンランが有るらしいが、発見できず。一気に岩場を登っていくと、神山の展望台、枯れ木にセッコク・マメズタランが張り付いています。頂上で休憩。その帰り道、来た道を大きく外れてモッチョム岳の中を写真に撮れるツリシュスランを探してある木に目がいきました、Y氏がカメラを持ってその木に挑むと、しばらくして、私達の頭上から、悲鳴とも言えるような「ぴゅーえええ・・」「マツゲぇ・・・」 下にいた私達もピンときました!なんとツリシュスランの着いていたところの裏側、日の当たらない面にマツゲカヤランと思われる小さなランが、10株ほどまとまって着生していました。中にはつぼみを付けた物もありました。    (写真・他は幻のマツゲカヤランを参照)

なんだか目的達成をしたような気持ちになってルンルンしながら下山。発見記念パーティー、また温泉でゆっくりした事を覚えています。

6日目 再発見に気をよくした私達は、以前Y氏が発見し、昨年も見に行ったヒメクリソラン・タネガシマシコウランの谷に、この2種も同じ場所でそれぞれ私達を待っていてくれました。付近を捜索するも、それ以上の発見は無し。昨年もそうでしたが、ヒルの多い事。午後からは島の北部に移動、港で、名産のさば節を、また新鮮な魚を刺身にして頂きました。

7日目 比較的大きな川を岩づたいに上って行きました。川の反対側に良い感じの木々が有る、よく見ると上部にフウランが着いていました。早速そちら側に移ろうとY氏・小川・菊山君が大きな岩の上をポンポンと飛び越えていく、最後に今田君、何を考えたか、岩ではない川の真ん中にダイブ!この方、蜂に刺されたり、ダイビングをしたりと何かにつけて楽しい仲間です。さてシイの木の上部10m程のところに大量のフウランがあり、カメラを持ったY氏は、登りやすそうな木にしがみつくと、するすると登っていき、木から木へと飛び移っていき、とんでも無い方向の木から下りてききます。 良くあるでしょ!ジャングルでオナガザルが木から木へ飛び移るやつ!あんな感じです。本当!Y氏はワイルドです。

これで私達の屋久島の旅は終わる事となります。翌朝のフェリーで鹿児島へ、せっかくなので大隅にも行きたいなと思いつつ、時間とお金がないので帰る事にしました。 宮崎県の髙鍋付近でヒッチハイクをしている人がいたので、車を止めると、なんと東京農大の探検部1年生で、西表島にオオピカリ(新種の山猫?)探しに行ったと言っていました。私達はこれから東京へ帰るので、一緒に行くかと言うと、山陰地方を回って帰るそうで、日向で下車。お金を持っているか尋ねると、1700円しかないらしい、かわいそうなので缶詰を渡して別れました。私達は宮崎県日向からフェリーでゆったりと凱旋となりなした。これで私が屋久島に行く最後の旅となりましたが、後輩の菊山君は島にはまってしまった様で、それからも後輩を連れて、何度も屋久島へ行っているようです。

蛇乃口の滝
マメヅタラン


コラム筆者:小川豊明

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