ガクブル・プラントハンター日記 夜の訪問者編 文:小川豊明

ネパール 真・真実体験集。事故・遭遇・山賊体験レポート 1986年

ネパール南部、インドとの国境近くデカン高原北の端標高100m程の湿地帯。 そんなところに農場がありました。 昼間は40℃になり、夜でも32℃一面のジャングル川と湿地・・・。 何というすばらしい条件でしょう。 農場には鶏を飼っていて貴重なタンパク源となっていました。 私の住んでいた小屋?は竹とヤシの葉でできた向こうまで見渡せる、すきま風スースーの心地よい環境で、時折…というか毎晩ジャッカルが集団で鶏を狙いに来ます。 夜9時半、決まって「アウアウアウアウアゥ・・・」と大きな声で鶏小屋の周りを回りながら狙いを付けます。 そしたら小屋の中にあるロープを引きドラム缶を吊ってある半鐘状の鐘を鳴らし、ジャッカルを追い払います。

ある日9時半になってもジャッカルが来ない晩がありました。 今日は休みかと思っていると、ミシッ、みしっ!と音がして、どことなく何か恐ろしい気配がしました。 小屋は周りをヤシの葉で囲んだだけ、恐怖のあまり思わず葉の隙間から外を覗いたところ、小屋のすぐそば、3m位のところに大きなトラが居ました。 獲物がこちらになればひとたまりもありません。 熊に遭遇したときは死んだふりを・・・なんて言いますが、そんな余裕はありません。 野生の動物は火が怖いと言うので私は音を立てないように、必死で火を起こしました。 パチパチと音を立てて火が燃え上がると、トラは跳ねるように逃げて行ってしまいました。 この時程、生きた心地のしなかった事はありませんでした。

この地方、トラの数は多くありませんが、子供が毎年トラの餌食になっているようで、腕のない人が居たり、川で泳いでいるうちにワニに足を食われたりと自然環境の厳しいところです。 近くの街のラプティー川には、昔、東京農大の学生がワニに飲まれたそうで、日本風のお墓がありました。


コラム筆者:小川豊明

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