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サバイバル日記 西表島編 その3

恐怖!密林のイルミネーション

1982年3月末、昨年西表島のジャングルの奥深くでみつけた正体不明のあのラン (後にトミヤマフタオランと命名された)のことがどうしても気になり、アルバイト先の社長に15日間の休みをもらって一人西表島までやってきました。

大原の港にたどり着いたのは昼の12時頃、バスの出発時刻まではあと1時間あります。 まずは腹ごしらえ。これから始まる過酷なジャングル散策を前にリッチにいこうとバス停前の食堂に入り、注文したのはイノシシチャンプル(焼肉)800円でした。ちなみにこの時食べたイノシシ肉は最高にうまくて、今に至るまでこれを越えるイノシシ肉には出会えていません。

古見の集落を過ぎ、水牛車で渡ることで知られている由布島が見えたところでバスを降りました。小さな田んぼから脇道にはいってすぐの草むらに、自宅から背負ってきた米や缶詰など2週間分の食料のほとんどをビニール袋につめて隠し、テント、寝袋、飯ごう、ガスコンロ等2日分の最低限の荷物だけを背負い山中へと向かいました。

迷わずに行っても島の最高峰、古見岳までは片道7時間を要します。このため今日のうちに行けるところまで進んでおけば明日は多少なりとも楽になるはずと思い、ジャングルの奥へと向かう川沿いのぬかるんだ小道を幾度も見失いドロドロになりながらひたすら歩き続けました。

かなり奥まで来たところで川の中を歩いていると、右方の水がしたたる斜面のコケの中には斜上して茎葉を伸ばすソノハラトンボの姿が点々と見られます。その対岸にやっとでぬかるみを避けられる程度の小高い場所をみつけテントを張りました。

サバの缶詰と即席ラーメンをおかずに晩飯を済ませた頃にはあたりは真っ暗に…なるはずだったのですが…? 明るすぎる。 テントの中からでも外の様子があきらかにおかしい事を感じました。静けさの中になんだか小さなざわめき、と同時に異様な気配を感じるのです。ここは人気のまったくないジャングルの奥なのに…。こわくてこわくて寝袋にくるまってじっと息をひそめてしばらくの間静かにしていた私ですが、勇気をだして恐る恐るテントを開け、すきまからそっと外を見た瞬間、目の前に見たことのないような幻想の世界がとびこんできました。 なんと、光の正体はホタル。何千匹ものホタルが乱舞し、まるで夢の世界にいるような自然のイルミネーションが広がっていたのです。

ホタル
ほっとした私はしばらくその光景を楽しんだ後、寝袋にくるまり、おやすみなさい…。

翌朝になり初めて気が付きましたが、テントのすぐそばでヒョロヒョロと黒褐色の茎を伸ばし、種子をはじかせてまもない無葉のランを何本か見つけました。おそらく新種もしくは新産だと思いますが35年が経過した今でもそれが何かの確認はしていません。

昨夜炊いた飯ごうの飯の中に、永○園のお茶漬けの素と川の水をぶちこんで、木の枝の箸でかきまわした朝飯をかきこみ、すぐ出発。 急峻な尾根をジグザグと登り小さな谷をひとつ越えたところまで来ると、古見岳が見えます。

ビロードに輝く葉を持つためジュエルオーキッドとも呼ばれるコウシュンシュスラン(Anoectochilus koshunensis)が点々と生える様子を足元に見ながら、昨年つぼみの状態で見つけた例の正体不明のランが自生する場所へと急ぎました。

前方にそのランを見つけ急いで駆け寄った時、私は唖然としてしまいました。 なぜなら、昨年よりも1か月近く時期をずらしてやっとの思いでここまで来たのに、またもやつぼみの状態で、開花している株は1本も見当たらないのです。

しかし、よく観察してみると一見花は開いていないように見えますが、下方はつぼみの状態で褐色に傷んでいる株が多く見られたのです。 つまり、私が昨年からつぼみだと信じていたのは、実はこのランにとっては開花している姿であり、もともと花を開かせない=咲かずのランだったのです。

今朝からこのラン見たさに何時間も無我夢中で歩き回っていた私でしたが、気が付くと腹も背中も太もももヒルに吸血され、シャツはあちこち血だらけの状態。 もしもハブに飛びつかれた時のためにと履いていた、ひざまである長ぐつの中だけでも、私の血を腹いっぱい吸って丸々と太ったヤマビルが5匹も居座っていたのでした。 体中のヤマビルをむしりとり、その日のうちに無事下山しました。


イラスト:M.Tajima

コラム筆者:山本裕之

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