ギボウシランを訪ねて ~八丈島へ~

2017 夏 小川豊明・桃佳

先日、段ボールに収められた(積んでおいた)写真を整理していたところ、学生時代に八丈で農業研修をしていたころの色あせた写真を発見。娘の桃佳が「いい所だね、行ってみたい」の一言にパパが反応、それじゃ行くか!ということになり、ぶっつけでのラン探しの旅スタートです。 8月24日夜の東海汽船八丈行をゲット、宿もネットでピッ!便利になりました。そして最大の問題がレンタカーの手配、八丈は結構大きな島で車なしではちょっと辛い所です。電話かけまくりで何とか直前予約ができました。以前私が行った頃はストレチア丸という貨客船でしたが、昨年客船に更新され新造船橘丸という、それはそれはきれいな客船になっておりました。

三宅島、御蔵島を経て目指す八丈島には翌日の8時過ぎに到着、レンタカーに乗り込み、さっそく昔研修でお世話になった農家さんを訪れ、お互い年を取ったな?とあいさつ。山の情報を収集。最近は林道に余り資金が回らず荒れていたり、通行できなくなっている所も多く、通れるかな?とのことでした。借りた車は軽自動車不安です。 30年ほど前は野生ランのブームもあり、島でも競ってランを採取して通販のカタログを賑わせていたものですが、バブルがはじけて植物を栽培する余裕がなくなったのか、人々の興味関心が植物から別の物へと変わってしまい、島での採取も少なくなったようです。しかし山そのものが荒れてきてしまい、様々な植物が急速に減ったとのことです。 この日はとりあえず、昔の記憶を取り戻して、島の南部に行ってみました。ここには昔たくさんのハチジョウツレサギが自生していました。写真を撮った場所に行ってみると、一面のサカキ林、草丈はそこそこですが、中は真っ暗、下草すらないありさまで、当然ランは確認できませんでした。周辺の林や昔あった民家の周りにも確認できずこの場所は消滅か?どこかに引っ越していればいいのですが。

お次はハチジョウシュスランが見られた浅い林へ行ってみました。そこは浅い山から深い山へと変化していました。薪を取るために管理されていた頃は、明るい林でしたが、30年の放置後は、鬱蒼とした藪になり、下草はシダ科植物がはびこっていました。目を皿のように探してやっと見つけたシュスランがこれ。花は咲かすことができているようですが、数株でした。

夕刻、宿営地であるコテージへ向かうと、かなり老朽化した建物と、たくさんのヤモリのお出迎え、おまけにエアコンが故障しており蒸し風呂状態、日頃お客さんが少ないのか、剣道部の部室の臭い。一発で喉と頭が痛くなりました。これで1泊8000円。

八丈2日目、宿のご主人のお手製朝食の後、東山へ散策に出かける。 むかし一面のナギランの山は現在ポツリポツリと見受けられる状態、30㎝もあろうかと思われたナギランは今は昔、寂しいものです。

その名も恐ろしい「人捨て穴」 食料のない時代は50歳になるとこの穴に捨てられたそうだ。八丈は火山島のため、あちこちに穴がある。 私は、むすめを驚かそうと人捨て穴の話をしながら、穴にたまった水に手を入れ、ジャブジャブとやったところ、ぶつけてもいないのに、その晩から右腕の肘がパンパンに腫れて、一晩で紫色になってしまいました。祟りでしょうか? それとも象皮病?

足ではありません、私の肘です!先人に謝ります。反省! 車のオーバーヒートを気にしながら、どんどん上っていくと常に霧のかかっている場所に出る、ここでは一面のコケ・シダ。日向の切通にありました、カキランです。残念ながら花の季節は終わって、種がなっていました。ハチジョウギボウシは開花中。

東山の山頂付近ではトンボソウの仲間が開花中です。

そして、ふと上を見ると東山では初めてセッコクを見つけました。

スギの木の苔むした枝に根をおろしていました。

明るいところでは、ガクアジサイが盛りを迎えていました。                    

斜面にはモウセンゴケがたくさん。 午後から、八丈富士へ登ってみるも、濃霧のため5m先が見えない状態。ルートの確認のみで帰る。

3日目、朝からいいお天気、湿度も高く最高に暑い!昨日決めておいた登山道から入山。 30年前あったクラクションを鳴らさないでくださいの看板はもうありませんでしたが、柵と牛除けのネットは健在と思ったら、山ヤギ除けのネットで、柵は開けたら閉めるように書いてありました。  コケに覆われた山に入るとすぐにセッコクがお出迎え。そんな高い場所でもないところにちらほら。

50mほど登ったところに、ムギランが足元付近に着生していました。

そして本当の足元にトンボソウが

そして本題のギボウシランはというと、ないんですね!明るすぎず暗すぎず、30年前の記憶ではやっぱり難しいのでしょうか、娘と一緒に山の中をさまよう事40分、ほんとに暗い場所にありました。 以前では考えられないような場所でした。

やっとの思いで探したギボウシランですが、どうもヤギが好んで食べているようで、山一面フンが落ちていました。近くにあるシマササバランは食害なしのようです。

せっかくだからと山頂火口の中に行こうとするが、あまりの暑さに気がめいり挫折!親子そろってのびてしまいました。

首を長く伸ばして待っていたナンバンギセル濃色? 最後の晩は学生時代にお世話になった、大興園の菊池國人さん宅で島料理のおもてなしを受け、むかし話の花が咲きました。そしてフェニックスに生える、夜光茸見物、大輪の花を咲かせる月下美人の花を見に連れて行ってもらい、今回の旅をしめました。

初めての八丈島行 東京農大2年 小川桃佳

千葉県周辺の山には父とよく行きますが、長い船旅の八丈島は初めての体験でした。植物のガイドブックや図鑑ではよくハチジョウ〇〇と書かれた植物を目にしますが、一人ではなかなか行けないところです。父が学生時代に実習で体験したことや、山の植物のことをよく聞いていた私でしたが、今回実際に島に行き、その目で観察できたこと、地元の方々にお話を聞けたこと、大変有意義なことでした。 遠めに見ても山深い急峻な地形で、どうやってあそこまで行くんだろうと思いましたが、島で3か月以上暮らしていた父の記憶と、勘には恐れ入りました。山の中で迷子になりそうになった時に、父のこっちへ行けば道に出る、あの尾根は近道とか野生の勘?にはびっくりしました。

わたし的にはやや観光気分で、温泉に入れる。景色がいい、その次にランが見られるの順だったような気がします。

山から帰ると毎日温泉三昧。宿に帰るとヤモリ君のお出迎え。 父の実習先での歓迎会の時に聞いた、「島の人口が減り続けて、小川君が来た頃より3000人も減った」と聞きました。若い人の働き口がないので、高校を卒業するとみんな内地に行ってしまう。と言っていました。観光業ではいささか息詰まっているようで、船か飛行機を利用しないといけない。大きなテーマパークが有るわけでもない、車社会からは外れてしまっている。人口が減っているため商店も減り続け大変不便になってきている。バスは1日5本、大きな専門の病院もない、どこの島でも、山間地でも抱えている問題に直面していると感じました。昭和40年代に東洋のハワイと言われ新婚旅行の聖地、八丈島。 暮らしと自然を守っていくのは私たちの役目だと思いました。 最終日の朝、朝食をとっていると私の手元に何かが降ってきました?ふと見ると5cm位のかわいいヤモリちゃんが、天井から味噌汁のお椀にダイブ!そっと拾って連れて帰りました。

船は出ていく、 煙は残る。 煙には哀愁が漂っていました。 また来ます八丈島。


コラム筆者:小川豊明

「野生のランに魅せられて」へ戻る

「自然人のコラム」へ戻る

ホームへ戻る