エビネの管理(春夏秋冬)
季節毎のエビネの管理方法を詳しく説明します。
春期
(3月~5月)
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置き場
この頃から日差しはかなり強くなります。開花までの間は、地面からの泥はねがなく同時に強風が避けられる明るい日陰で栽培します。 また、明るすぎる場所では、花色が濁ってしまうことがあります。このため、直射日光が長時間あたる場所では日よけをして、強い日差しを遮ります。 出蕾時の強風は葉が蕾に触れ、傷つけてしまう事があるので風あたりの弱い場所へおくか、囲いをし、強風を避けるようにします。水やり
健康な株では気温の上昇や花芽の生育にともない、鉢内は今までよりも乾きが早くなります。生育にあわせて徐々に灌水の回数を増やしていきます。新芽の伸長期から開花までの間に、水分が不足すると、花芽の生育が阻害され、きれいに咲かない事があるので注意します。土の表面が乾いたらあまり間をおかずにかん水し、極度に乾燥させないようにします。 しかし植え替え直後の株や根傷みのある株、また大きな鉢で栽培している株などは、乾きにくいので水のやり過ぎにも注意します。 やわらかい新芽は灰色カビ病によりいためてしまうことがあるので、つぼみが見え始めてから花が終わるまでの間は、風通しを良くし、新芽や花に水がかからないように水やりをしてください。花後は頭上より水をかけてもかまいませんが、展開してまもなくの新芽はまだやわらかく、勢いよく水をかけると傷めてしまうことがあるので注意してかん水してください。病害虫
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花前・花後の作業
花前
つぼみが見える前に、枯れて繊維だけになった葉は取り除きます。また、一部だけ傷んでいる葉は、緑色部分をなるべく多く残すようにして、枯れた部分 (褐色部分) のみを、火で炙って滅菌したハサミを使い切りとります。 丈夫な種類では新芽だけを残して傷んで見苦しくなった葉を全て切り取ってしまっても大きな問題は生じませんが、なるべく多くの葉を残すことで、より上作が望めます。花後
開花も終わりに近づき、しぼみ始めた花の花茎は、早めに抜き取ります (片手で新芽の元をおさえ、反対の手で花茎を回転させるようにして引き抜くと、簡単に抜けます)。抜き取りがおくれると花茎はかたくなり、抜きにくくなるだけでなく、落下した花ガラに生じるカビにより、新芽を傷めてしまうことがあるので早めに終わらせます。その他の注意点
開花時に室内などの暗い場所に置かれていた鉢をいきなり屋外の強い風や日光の当たる場所へ移動すると、急激な変化に対応できず、短時間で葉が変色してしまうことがあります。株に大きなダメージを与えてしまい、その後の生育に悪影響を及ぼすので注意が必要です。 一時的に風当たりのゆるやかな明るい日陰に置き、その後、本来の栽培場所へ移動するなどし、徐々に屋外の環境に慣らしてください。花をきれいに楽しむためのポイント
花茎が伸びはじめて以降の鉢の移動や水分不足は、花茎に曲がりを生じさせ、見苦しくなることがあるので気を付けます。花は温度が高いと早くしぼみ、逆に温度が低いと長持ちします。このため花時は、水を切らさないように注意し、なるべく涼しい場所へ置くことで長い間花を楽しめます。 また、エビネの多くは、人間が好きではありません。人が多く集まり空気がよどむ室内などではエビネも人間と同様にストレスがかかり、開花後すぐにしぼんでしまうことがあるので気を付けます。夏期
(6月~8月)
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置き場
理想の置き場所を一言で表現すると、「風通しが適度にあり、葉が褐色に焼けない程度に明るく、夜間はなるべく涼しい場所」です。 展示会目的などで、葉もきれいに作りたい場合は、雨がかからない場所におき、自分で花を楽しむだけならば、雨があたる場所でも問題ありません。良株を求め、このような場所に置けば、たいして面倒を見なくても良く育ちます。 実際にどのような場所が適しているのかというと、 - 建物の北側などで周囲に障害物がない明るい日陰 - 樹木や建物の間から直射日光が時折差し込むような日陰 - 家の東側などで午前中の1~2時間、直射日光があたり、その後、長時間の直射日光があたらない日陰 また一日中、日があたる場所や西日しかあたらない場所でも適度に遮光 (日よけ) をし、風通しを良くし、涼しく保つことで栽培に適した環境になります。西日があたる場所での栽培
観賞用の植物の栽培では西日があたると良くないと言われています。しかし、かなり多くの植物は、風通しが良く、夕方の涼しい場所では西日しかあたらなくても良く育ちます。 ただし、日光が日中から連続してあたり続ける場所での西日は、葉の温度を極度に上昇させ、葉焼けをおこしたり、体力を消耗させ、株 (エビネ) を疲れさせてしまうので注意します。西日が直接あたる場所では風通しをよくし、適度に遮光 (50%~70%程度) し、夕刻時の葉温の上昇を防ぐ事でエビネも良く育ちます。水やり
使用している用土や鉢の種類、また置き場の環境により、乾く速度は異なるのが普通です。このため葉が展開した後の水やりは、常に湿らせておくのではなく、鉢土が乾いたらたっぷりと灌水し、再び乾いたら灌水するというように、メリハリを付けて行います。鉢土が乾かなければ真夏でも一週間以上水やりをしない場合もあります。 一度に与える量の目安は、その鉢の大きさを容器にたとえて、それを超えるくらいの量が適量です。また雨が多く一週間以上乾かないような場合は、水やりよりも液肥の施用を優先して行い、乾かなければ水やりは行いません。 風通しが良く、周りの植物 (鉢) や、地面からの泥はねのない場所では、屋外の雨のあたる場所で栽培してもかまいません。むしろ他の条件が悪くなければ雨にあてて栽培する方が、とても良く育つこともあります。ただし、周囲に多くの植物がある場合、他の鉢からの雨水の跳ね上がりや地面からの泥はねによりおこる病気に注意します。高温時の水やり
一部の種類を除けば、日中の最高気温が35℃をこす日が何日も続く場合の灌水は、夕方から夜間に葉にも水がかかるようにおこないます。高温時、日中の水やりは根を傷めてしまうことがあるので控えた方が無難です。 風がなく、夜間の気温が27~28℃を下回らない場合、葉からの蒸散が抑制され、それにともない根からの吸水も少なくなります。このため鉢内の乾きが悪くなることがあります。それに気付かず、いつもと同じペースで水やりを行うと蒸れや水分過多により、根を傷め株に大きなダメージを与えてしまうことがあるので注意が必要です。近年は暑い夏が多く、特に気を付けて下さい。 夜間まで高温が続く時は、夕方から夜にかけ、葉に冷たい水 (約15℃前後) をかるくかけることで、葉の温度を下げ、体力の消耗がおさえられます。これにより株へのストレスが減り、花芽の生育もスムーズに行われます。 近年のように気象の変動が激しいときの水やりのコツは、何日に一回というのではなく、乾き具合やその他の状況に合わせて行い、何よりもエビネに対しての思いやりが大切です。病害虫
湿度が高く、空気がよどむ場所では、褐色に枯れて間もないハカマ部分に灰色カビ病 (ボトリチス Botrytis) が多く発生します。気付くのが遅れ、被害がすすむと、葉の付け根付近から倒れ、ひどい場合には葉が取れてしまうことがあります。よく観察し、ハカマが褐色に変わる前と後に2回程度、株元にかかるように殺菌剤を散布します。
ハカマ (葉鞘) の観察が重要
傷口からの病気の感染を防ぐため、ハカマ部分はいじらないのが一番です。 しかし、すでに葉柄部に腐れや黒色の病斑などの症状が見られる場合には、被害の拡大を防ぐため、清潔な手で切り開きます。その後、殺菌剤を散布します。ハカマ部分に発生するカビに注意
開花後に株元 (ハカマ) に発生する腐れはカビが見えにくいため軟腐病と誤認されることがよくあります。私の経験では、病徴は軟腐病に似ているけれど、その多くは灰色カビ病菌 (ボトリチス) によるものがほとんどです。軟腐病 (細菌) の場合は、新芽だけでなく株全体を腐らせてしまうこともしばしばあるので注意します。通常は軟腐病と灰色カビ病では使用する農薬が異なるため、おのおのに有効な農薬散布もよいでしょう。秋期
(9月~11月)
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置き場
暑さが避けられる明るい日陰で、なるべく涼しい場所が理想です。夜間まで続く高温は、秋に新芽を異常に伸長させてしまうことがあります。遅く (10月頃) まで、高温が続くようであれば涼しい場所に置くか、日よけなどで工夫し、なるべく涼しくなるように気を付けます。 寒さが苦手な種類は、寒風や凍結により葉を傷めないように、早めの防寒対策を行います。冬場は日の角度が変わるため、直射日光が当たることによる葉焼けにも注意します。水やり
土の中では根先の活動が今までよりも活発になります。これに伴い鉢土の渇きも早くなります。乾いたら水をあげまた乾いたら水をあげるというように、鉢の渇きに合わせての水やりを行います。 ニオイエビネやサルメンエビネがかかわる種類では、この時期 (9~10月) に夜間まで高温が続くと暑さのため、新芽が異常に伸長し葉が展開したり、ひどい場合には貧弱な花を咲かせてしまうこともあります。 9月以降も暑さが続く場合は、夕方から夜間にかけて葉に水をかけ体温を下げることで秋におきる様々な障害が避けられます。病害虫
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冬期
(12月~2月)
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置き場
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水やり
冬期のエビネは葉が伏せるため元気がないように見えることもあります。鉢植えの株の場合、これを水分不足と勘違いし、水をやりすぎると水分過多や、夜間の凍結により根を傷めてしまうことがあるので、気を付けてください。この時期のエビネはかなりの乾燥にも耐えられます。しかし、極度の乾燥はつぼみの生育に悪影響を与えるので注意します。 雨かかる場所では、よほど乾かないかぎり与えなくても大丈夫です。雨があたらない場所では月に1~4回程度が普通です。一回の量は、鉢底からたっぷりと流れる出るくらいの量が適当です。 健全な株では、葉の上からかけても問題はありませんが、夜間凍る心配がある場所では、暖かい日の午前中に行い、夕方までに葉についた水滴が乾くようにしてください。病斑や葉傷みのある株の場合は、被害を広げないように株元にのみ行います。冬の作業 (植替え・株分け)
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その他
東北地方など、春から夏の期間が短く、開花時期が遅くなるところでは、サルメンエビネやジエビネを除く種類を、温室や保温施設のない場所で育てる場合、冬の最低気温だけでなく、生育に必要な積算温度の不足により立派に育たないこともあります。温室など、保温、加温の設備があれば問題ありません。ホームへ戻る