English / 日本語

Facebookのアイコン

youtubeのアイコン

sitemap

鹿児島県鹿児島郡 三島村黒島調査 2010年8月 文:小川豊明

薩摩半島開聞岳の南、約70kmの洋上に浮かぶ三島村黒島、島の周囲は20km。 東から竹島、硫黄島と続いて並ぶ小さな離島である。 これらの島は、硫黄島の東半分と、黒島の中央山岳地帯をのぞくと一面のリュウキュウチクが鬱そうと繁り、船の上から見てもサヤサヤと風になびいている様子がうかがえる美しい島である。 硫黄島は活火山、東半分は赤褐色の山肌をむきだし、随所から蒸気と硫黄を吹き上げ、海岸の波打ち際の海水は硫黄の流出によって萌葱色に彩られ白波とともに大変美しい。 間近に見える硫黄島の眺めはこの航路を通る三島村営船「三島丸」の数人の乗客が見ているだけでは余りにも惜しい絶景である。 鹿児島港を朝9時30分に出航した船は、竹島・硫黄島に立ち寄って夕刻に黒島大里の沖に到着した。港近くの土地をのぞいて島の周囲は全て100mにも及ぶ浸食断崖で、海からそそり立つ様子は伊豆の御蔵島の風景に似ていた。

大里の港に近づくと、断崖の上には一面にリュウキュウチクが生い茂り、その中にポツリポツリとビロウが混ざり、南国の島の雰囲気を漂わせている。 鹿児島からやって来る船は、本土との唯一の交通機関であり、食料と、燃料などの生活物資を運ぶ島の生命線である。船は大里の次の片泊で一泊して帰路につくので この島での訪問は最低でも6日間を要する。島には数件の民宿があり、大里集落の上部「旅荘谷口」さんにお世話になる。島にはもう一つ片泊の集落があり、人口は約190人、警官は一人もいない。小中学校は一緒になって二つの集落にそれぞれ1つずつ、鹿児島よりの船中で知り合った片泊小中学校の校長先生によると、生徒14人、教員12人だそうだ。商店も以前は2軒有ったそうだが、現在は1軒のみ、それも不定休、役場の支所と郵便局が一緒になり集落の中心にある。小さくて寂しい村だが人々の心は非常に暖かい。

竹島港待合所

硫黄島港酸化鉄で水が赤い

村営船、三島丸船上より硫黄島を望む

黒島大里集落中央は小中学校

今回の採取行では三島村村長さんの大山氏のご協力により、島での機動力になる公用車をお借りすることが出来、なおかつ島では大変貴重なガソリンまで提供して頂いた。 ちなみに、黒島にはガソリンスタンドや燃料店は無く、島の住民は本土に発注し船便でそれらを得ているそうだ。 当然、旅行者が車や燃料の調達をすることは無理であり、大変助かった。 島では小さなバイクや、軽トラック、耕耘機に取り付けたテーラーが主な機動力となる。

今回お世話になった旅荘谷口では、大変元気なおばあちゃんに出迎えられ、弁当の調達や、洗濯物の始末まであれやこれやと私たちのわがままに対応していただいた。 また、なんと言っても日頃口にしない大きな伊勢エビや、初めて見た蝉エビなど、毎夜の夕食がとても楽しみな事であった。

島での生活では、このおばあちゃんの作ってくれた物以外は役場の前で売っている缶ジュースしか無く、調査行のメンバーはみな「何か買ってくればよかったなあ・・」と島での生活に不安を覚えたものでした。 しかしそれは日頃の甘えた生活を見直す事となり、ささやかながらこれからの人生に役立つことになるであろう。

旅荘谷口、ある日の夕食

黒島大里のメイン通り

黒島の中央には標高622mの櫓岳(やぐらだけ)があり、その周囲には500mを超える山々がある。 島の中腹には県道と村道があり島を一周している。 また、島の中央で交差するように東西南北から林道が山々を貫いている。 しかし、無理な林道工事の影響か、山を切り開いて建設された林道沿いでは、風が吹き抜けるためか、大きなスダジイが白骨と化して立ち枯れている。 どこの島でもそうだが、村の活性化のための人的手段のため、ここでも大変な自然破壊が進んでいた。 それと、島全体で牛を放牧している様子を見たが、焼き畑の後のような放牧場ではリュウキュウチクが入り込み、海岸地帯から、標高300~400m程までが一面の笹藪となっている。 私が訪ねた時期はちょうど8月下旬であり、約2週間程晴天が続き、山全体が乾燥しており通常時の様子は伺えなかったが、周りに生えている植物の種類、生育の様子からかなり乾燥していることが伺える。 北部の中里林道入り口から、櫓岳の標高400m付近十字路までではラン科植物はコクラン、ユウコクランのみ少量の観察ができたにすぎない。

沢伝いの湿った場所のユウコクラン

櫓岳遊歩道の入り口からしばらく登ると、斜面が大きく崩れ、行く手をふさぐ、土砂を避けながらさらに行くといよいよ山道のお出ましとなる。 急で足場の悪い階段の道を行くと、ここが遊歩道である証の様に半ば朽ち果てたベンチがある。 かつてここを観光の島にしようとした島の人々の努力遺産という感じだ。 道の様子からここしばらくは人の行き来は無いようである。 谷をいくつか越えて、再び急な登りになると辺り一面にハランの群生地になり、下草は無くなる。 道ばたのやや明るい場所にはトカラカンアオイの大きな株が点在し始める。

櫓岳遊歩道の様子

天まで昇っていきそうな階段

櫓岳の標高550m程の所に櫓岳山頂と、横岳方面の分岐点があり、東へ行けば島の最高地点櫓岳、西へ行けば横岳からガムコ山方面へ行くこととなる。 ここまで来ると山の木々は背の低いスダジイとアカガシそれとやっかいなリュウキュウチクとハランの下草のおまけ付きとなる。ランは全くといって見あたらない。 分岐点より東側、櫓岳方面は一度沢状の浅い谷を渡り、急な登りとなる。 この坂を登り切ったあたり、比較的低い木にセッコクがちらりほらりと着生している。 しかしササとハランが一面にはびこみ、道から外れることは容易ではない。

山頂近くの分岐点

トカラカンアオイ

櫓岳山頂には、一等水準点があり、標高622mと刻まれた石が埋め込まれている。

櫓岳山頂の三角点

山頂付近のセッコク

山頂から大里方面を望む

山頂付近の下草

分岐点より西側、横岳方面は比較的緩やかなアップダウンで、尾根道沿いの木々には沢山のセッコクが見られた、山頂に近い尾根なので自生する木々は背の低いアカガシが圧倒的に多く、まばらにアカメガシワがある。 林床にはここにもササ、ハランの大群落が押し寄せている。 やぶをかき分け辺りを散策すると、尾根の北側斜面に極わずかながらツユクサシュスラン、ヤクシマシュスランと思われる個体、カゲロウランが自生していた。

ヤクシマシュスランと思われる個体

ツユクサシュスラン

尾根の南側 斜面はこれは見事なハランの大群生地になっていて、足を踏み入れることさえ拒まれる。 斜面はどこまで行ってもとても急で、ほんの60m程下っただけだが、昇るのに2時間ほどかかった。 そしてラン科植物は、クロムヨウランのみを見るにすぎなかった。

一面のハラン標高500m付近

クロムヨウランの開花

クロムヨウランと思われるムヨウランは、たまたま休憩した樫の木の下にひっそりと咲いていた。 薄クリーム色をした花弁に鮮やかな紫色のリップその中に3本の黄色い隆起線、株元には昨年の物か沢山の莢を付けた黒い茎が立っていた。 日本の南部地域に、希産する種類。 櫓岳、横岳周辺の標高500m~600m付近では、非常に林床の植物は貧相であり、ラン科植物は少ない。 昭和41年の黒島のランについて書かれた文献では、櫓岳周辺、標高300m以上には山全体にオナガエビネ、ヒロハノカランが至る所に自生していた・・・。 と有るが、エビネ属の発見には至らなかった。 地図にポイントを記録して、トカラカンアオイをみながら朝来た長い長い階段を駆け下りた。

山に入って3日目、一緒に来ていた昆虫調査の仲間は隣の硫黄島へと移っていった。 いよいよ黒島には私だけとなった。 早朝より、役場のワゴン車で一路島の南側へ1車線の村道を6㎞程行くと、標高400m付近に着く。 島の北側と比べると、南側は海岸付近より櫓岳山頂まで樹齢の進んだスダジイの森で、いかにも色々な植物がありそうである。

これから入山!

南側斜面の様子

実際南側の山は深く また機動力満点の車を駐車させるスペースが無く、ねらった所になかなかたどり着けないというハプニングもあった。 地図にもはっきりとわかる、南に口を開けた大きな谷に的を絞り沢登りをはじめる。 山に入ってまもなく第二のハプニング、大量の大きな毛虫が木々に着いており行く手を拒む。 この毛虫ゾーンを抜けるのに小一時間かかったが、林床にはランは無し。 標高450m位からポツポツとコクランやユウコクラン、ツユクサシュスランが見られ他のランの発見が予想されたが、それ以上の物は無かった。

南面より入山

クヌギやコナラに!

ここもまた、一面のハランの大群生があり、土を見ることもままならない。 北側のように一面のリュウキュウチクが無かっただけが唯一の救いか。 谷づたいに上を目指して500m付近まで観察したが、これといった成果が無く、帰りは尾根筋を行く。 さんざん山の中をさまよった末、ついに夏咲きエビネを発見。 黒島にはオガガエビネの記録があるが、私が見た物はツルランであった。花季は過ぎており最後の花がギリギリ咲いていた。

大株のツルラン

ヤクシマシュスラン?

しかし、周り一帯くまなく探したが 後にも先にもこの一株だけであり、不思議である。
暗いところにはヤクシマシュスランの柄無し個体と思われる物、ヤクシマアカシュスランと思われる個体がちらほらと自生していた。(花が無いので未確認) 尾根すじの薮をかき分けながら下を目指し下山。 ほかのランは無し。 山を下から見上げるのと、実際の山の中は大違いであり、不思議な環境の島である。

リュウビンタイが茂る山中

車とはだいぶ離れた所に下山?

宿のおばちゃんに、春になると道ばたや、草むらに桃色の花が一斉に咲き、それはきれいだ・・・と聞き、私はきっとオキナワチドリのことだと感じた。 九州の大隅半島や、屋久島で見たことがあるので、中間地点のこの島にも自生していても不思議ではない。 夏のこの時期は休眠期であるため、発見出来ないであろうが試しに灯台周りの草地に行ってみた。 案の状である。 春に又来ることにする。 ネジバナは咲いていた。 翌日、三島丸船上で知り合った片泊小中学校の校長尾場瀬先生を訪ねた。 片泊に着任してから島の写真を撮りためているそうで、ここ数年の島の自然の写真を見せていただいた。 その写真にも夏咲きエビネはなく、学校の先生方に尋ねた所、「昔はちょっと山に入ればたくさんあったが、島にカーフェリーが通うようになってから本土からトラックで山の草やツツジを根こそぎ持って行ってしまった」とのことでした。 それにしても根こそぎです。 島から北の方を望むと遠くに甑島列島が見え、南には屋久島が望める立地条件だが、甑島・屋久島と比べ余りにもラン科植物が少ないのに愕然とした。

摩黒島に自生するであろうラン科植物及び自生する物一覧
名称 薩摩黒島予想 黒島での有無 屋久島 甑島 種子島
エビネ - -
キエビネ - - -
キリシマエビネ -
オナガエビネ -
ツルラン -
ダルマエビネ
ナツエビネ - -
リュウキュウエビネ - -
サクラジマエビネ - - - -
トクサラン -
ガンゼキラン
ホシケイラン -
カクチョウラン - - - -
レンギョウエビネ(スズフリ) - - -
ヒゼン 雑 * - - -
ヒゴ 雑 * - - - -
サツマ 雑 * - - - -
ユウズル 雑 -
オオダルマ 雑
シュンラン - - -
ユウシュンラン - - - -
カンラン - -
ヘツカラン - - - -
ナギラン -
シュスラン -
ミヤマウズラ -
シマシュスラン - - -
ツユクサシュスラン -
アケボノシュスラン - -
ヤクシマシュスラン -
カゲロウラン - - -
キヌラン - - - -
ヒメクリソラン - - - -
オキナワチドリ -
サツマチドリ - - - -
ツリシュスラン - - - -
カゴメラン - -
ヤクシマヒメアリドウシラン - - -
キヌラン - - - -
ネジバナ
コクラン -
ユウコクラン
ギボウシラン - - - -
セッコク
キバナセッコク - -
オサラン -
フウラン - -
ムギラン - - -
ミヤマムギラン -
ナゴラン - -
オオオサラン - - - -
マメヅタラン - -
カヤラン - - - -
ベニカヤラン - - - -
マツゲカヤラン - - - -
チケイラン - -
タネガシマシコウラン - - -
ヨウラクラン - - -
ムヨウラン - - - -
ツチアケビ - - - -
クロムヨウラン - - -
タネガシマムヨウラン - - - -
ヨウラクラン - - -
ムヨウラン - - - -
ツチアケビ - - - -
クロムヨウラン - - -
タネガシマムヨウラン - - - -
ヤクシマラン - - - -
ヤクシマネッタイラン - - - -

島での一週間は瞬く間に過ぎてしまった、その間島の人々に暖かく迎えられ、協力していただきとても助かりました。 また人々の生活の様子や、島の歩き方、情報等様々な部分でご指導いただき本当にありがとうございました。 最後に今回のこの企画に全面的に協力してくださった、三島村の大山村長様はじめ、役場の方々に感謝の気持ちを表して報告とさせていただきます。


コラム筆者: 小川豊明

「野生のランに魅せられて」へ戻る

「自然人の語り」へ戻る

ホームへ戻る