鈴吉(すずきち)のアワチドリ物語 文:山本裕之
今から約40年前に、花好きの長老(おじいさん)から聞いた本当のお話です。
昭和の中頃のことです。神奈川県は横浜の富岡というところに、野の花が大好きなひとりのおじさんが住んでいました。
名前は鈴吉(すずきち)、本名を鈴木吉五郎といいます。彼の家からは浦賀の水道(東京湾)を隔て、対岸の房総半島(千葉県)の山々がいつも、くっきりと見えます。
夏のある日のことです。船や汽車を乗り継いで、上総(かずさ)の国、亀山から野山を散策して安房(あわ)の国の清澄山へ向かう途中、道わきの急な斜面に茂る草の中に紫色の花を咲かせた小さなランを見つけました。
このランが後に、千葉県にだけ自生する希少な蘭花“安房千鳥(あわちどり)”となりました。
見つけた場所が千葉県の旧国名、上総の国から安房の国にわずかに入った場所で、たくさんの小鳥が群れて飛んでいるような姿から安房千鳥(あわちどり)と名付けたそうです。
学名は発見した自分の姓、鈴木をとり、Ponerorchis suzukiana あるいは P.g.var suzukiana となったそうです。
今では品種改良が進み、園芸品種として世界中の人々に知られるランになっています。
夢ちどり、あわちどり - フロリアード(オランダ国際花博)展示
コラム筆者:山本裕之