奄美大島 屋(や)鈍(どん)で見つけたジャリジャリバナナ

奄美大島、名瀬の町で、ピンクに茶色、さらに黄色が入り混じった今まで見たことがないような花色のアマミエビネが展示されていました。 その持ち主が言うには、奄美大島の西の端の方の屋鈍(ヤドン)というところの先でみつかった、ということでした。 それはアマミエビネというよりも、一つ隣の島、徳之島に生えるトクノシマエビネとの交雑であるかのような花色でした。 もしこれが本当にアマミエビネとトクノシマエビネの交雑個体だとするのならば、もしかしたら他にも色々変わった花があるかもしれないと思い、私たちは屋鈍へ向け未舗装の道を砂ボコリを巻きあげながら車を走らせました。

林道から右手には海、左手にはまるまると茂る植えられたようなバナナの林が見えます。 そしてそこにはやや小ぶりながらたくさんのバナナがたわわに実っている姿が目に留まりました。 私はそれを見て、以前、母島の内藤さんのところで山田君と一緒にごちそうになったミニのモンキーバナナ(品種名オガサワラ)の味を思い出しました。 それはかなりの糖度があり、ねっとりとした食感で甘みと酸味が適度にマッチし、まるでイチゴのような味がするそれはそれはおいしいバナナでした。 あの時のバナナの味が瞬間的に脳裏によみがえって我慢できなくなった私は、林道に車を停めて、急いで草むらをかきわけてなんとかそのバナナの実る場所へたどり着くと、すぐに黄色い実をむしりとり、皮をむいてガブリ。 その瞬間、ジャリジャリジャリィッ!と想像していなかった食感に襲われました。 考えてみれば私たちが普段口にするバナナには種がなく、口の中に異物が残ることはほとんどありません。

私たちがさぞかしおいしいだろうと思い、疑うこともなく口にしたバナナは、普通の2倍体の個体だったのでしょうか、中はジャリジャリ種だらけ。その食感はバナナというよりも、子供の頃から口にしていた「あけび」とそっくり。ゴロゴロとした種だらけでとても食えたものではありませんでした。

結局、島のはるか端の方の屋鈍まで来たものの、エビネは一本もみつからず、あの時食べたバナナが史上最悪な味だったことだけを憶えています。生涯忘れることが出来ないようなすごい味でした。


イラスト:M.Tajima

コラム筆者:山本裕之

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