初めてのへツカラン

初めてのへツカラン(Cymbidium dayanum)
〜次の目的地を佐田・辺塚に定めていざまいらん〜

初めての奄美大島より続く

私たち探検隊が向かったのは大隅半島の先端、佐多岬の近くにある佐田辺塚という小さな部落。佐田岬へは、まだ農大に入学して間もない1年生の時4月末にすべての授業をすっぽかし、学校で知り合ったばかりの蝶の収集家西村ジョー君と2人で、千葉から軽トラに乗り、エビネを探しに来たことがありました。そのときの記憶は薄く、冷たい雨が降っていたことと、行く途中にある大根占(おおねじめ)という所のクスの大樹にボウランがたくさんついていたことだけを覚えています。

私たちは地図上にある辺塚という場所を目指して、錦江湾の大根占から明りが一つもない真っ暗な砂利道を一路、佐田辺塚へと向け走り抜けました。ここはかなりの田舎なのか、すれ違う対向車は一台もなく、時々タヌキの目玉でしょうか、キラリと輝く2つの光だけが見えました。 そんななか、私たちを乗せたみどりのキャラバンは、目的地の辺塚へ向け、ひたすら走り続けます。やがて坂道を下り、人家を通り過ぎたところの広場に車を停めて寝ることにしました。 夜明けとともに、早起きしたアーリーバードの仲間、岡本君と柴田君が車の外へ出ていきました。しかし、数分後、とても慌てた様子で戻ってきてこう叫ぶのです。

「近くの家の庭先にヘツカランがあった!!」

それを聞いた瞬間、眠気は一気にぶっ飛んでしまいました。残りのメンバーも即座に飛び起き、大木の見える目の前の神社へ駆け出しました。皆、わきあがる興奮にいても立ってもいられなくなってしまったのです。しかしそこにはヘツカランの姿は無く、そこからは各々が好きな場所へと散らばっていきました。周りのどこを探しても自生のヘツカランは見当たらず、探しても探しても、見つかるのはナゴランとボウランばかりで目的のヘツカランは誰一人としてみつけることが出来ませんでした。

そのため早々に朝飯を済ませて、人里から離れた山奥へと移動することにしました。 小さな漁港の前を通り過ぎ、くねくねと曲がりながらぬかるみの林道の急坂を上っていくと、海岸から続く南向きの斜面に自然の大木が茂るすがすがしい谷間が見えました。私たちは林道わきに車を停め、その谷をおりていくと、はるか向こうには、霧の中に種子島が望めました。

「あっ!ヘツカランだっ!」

 前方の谷の上へと張り出す太い樹の横枝に、シンビジュームの大株=ヘツカランの姿をみつけました。初めて見るヘツカランの姿は、着生しているというよりも朽ちかけた太い枝にどっしりと座っているというイメージでした。 そこには、いくつもの丸々と太った大きな種子が樹上から垂れ下がるように実っていました。


初めての三宅島83年 文:小川豊明

私が覗いた下甑島1983年8月 文:小川豊明

ヘツカラン探索記1985年 文:小川豊明

コラム筆者:山本裕之

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