私の宝探し オガサワラシコウラン編

ダッダッダッダ、と鈍い音をたてながら走る内藤さんの耕運機の荷台にしがみつくように乗り、揺られること2時間あまり。途中、100年に一度だけ花を咲かせるという伝説の多肉植物リュウゼツラン(*この場所では、頻繁に花茎を伸ばしているけれど?)の群落を横目に見ながら先へ進む。やがて、こうもり谷を過ぎたあたりからは、南国の樹々が茂る密林へと変わっていきます。

私が母島を訪れるのはこれが3度目です。島へ着くとすぐに毎回お世話になっている内藤さんのところへ来島のごあいさつにうかがいました。すると内藤さんから「明日、オガサワラシコウランを一緒に取りに行きませんか?」と誘われました。この時、内藤さんが言うには、近々、林道の拡張工事があり、その予定地にある木にはオガサワラシコウランがたくさん着生しており、すでに営林署から採取の許可をもらってあるので、よければ明日それを取りに行きませんか?という事でした。私は二つ返事で了解し、こうして…

オガサワラシコウランとムニンボウランの自生の様子
ムニンボウランの自生の様子
オガサワラシコウランの自生の様子

さらに進むと、オガサワラシコウランがぐるりと巻き付くように着生している大木の下をくぐりぬけ、しばらくすると、私が過去にとても恐い体験をした目的地の幽霊谷(命名は私)にあるオガサワラシコウランの着生樹の下へ到着しました。 ここは以前、何度も来たことがありますが、改めて頭上を見上げてみると、そこにはムニンボウランとオガサワラシコウランが数本の木に着生していました。この場所のオガサワラシコウランは日当たりが良いため、株全体が黄ばみが強く、ガッシリとしまった感じで、複数の枯れた花茎をもつ立派な株でした。営林署の了承済みという事で、斜面にかじり付くようにして持参したノコギリを使い堂々と径15cmくらい太さの枝に着いたままの状態で切り落とし、沖村にある内藤さんの農園に持ち帰りました。 そんなわけで、この時、想像もしていなかった豪快な植物採取を経験した私ですが、帰りに(母島を去る際に)これとは別の花付きがすこぶる良好な、特別な個体をおみやげにいただきました。 その後、春及園の鈴木吉五郎氏がオガサワラシコウランは持っていないので育ててみたいという話でしたので、この個体をそっくりそのまま氏にプレゼントしました。今も元気に育っていれば、たくさんの花を咲かせていることと思います。何しろ特別に花上りの良好な個体でしたので・・・。

オガサワラシコウラン(Bulbophyllum boninense

小笠原諸島の樹木や岩などに着生する固有のラン。 初夏の頃、この仲間としてはやや丸みのあるふっくらとした淡黄色の花を長さ30センチほどに、細く伸びた花茎の先に数個程度咲かせます。

自生地でのオガサワラシコウランの様子ですが、全体の数量(自生数)に対して開花している株の割合は極めて少なく、このため種子から発芽し、生長したと思われる小株もほとんど見当たりません。 反面、栄養繁殖率は極めて高く、一個体から増殖したものと考えられる大株が岩一面びっしりとはびこるように着生している姿がしばしば見られます。

山頂近くなど、海からの風が吹き上がり、霧が多く発生するような場所では、樹木や岩ぺきだけでなく、地面に転がる小石にいたるまであたり一面にびっしりと自生している場所もあります。

このような事から推測すると、同属の他の種と比べて個体の寿命は相当長いことが推測できます。 また外観上はバルブとバルブをつなぐ節間がとても長く、ときには20センチをこえるものも見られ、このため株の前から後まで1メートル以上になるものも多くあります。特に暗めの自生地ではこの特徴が顕著にあらわれ、大株の草姿はシコウラン(Cirrhopetalum uraiense)というよりもクスクスラン(Bulbophyllum affine)の自生の姿によく似ています。


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コラム筆者:山本裕之

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