リュウキュウセッコク ~ 西表のジャングルをかきわけて ~

[探検隊員: 西尾、南條、山本]

西表島の南には、仲間川という巨大なマングローブの林をもつ大きな川があります。そこへつながるひとつの支流の奥のずっと奥の山奥にある最上部、海抜300メートルくらいの小高い山から続く尾根の近くにいつも水がしみ出ている小さなドロ池があります。 ここが流れを左右 (手前と向う側) にふり分けて、川の流れを作る源流地点です。 私たちは川沿いの小屋で一晩を過ごした後、早朝から仲間川支流の最上部の尾根を目指し歩き始めました。

途中、たくさんのバイケイランが自生している密林を通り、目的とする尾根までは地図上では、わずか2km、高低差もたかだか250mしかありません。しかし前方には、猛烈にからみ合いながら茂る、つぁるだん (ツルアダン) の大群があり、行く手をはばまれて容易に進むことはできません。それでも、地上高くにまでからみ合うツルアダンの茎葉に足をとられたり、トゲで手足を傷だらけにしながら、およそ10時間かけてやっとの思いで滝の上の目的地まで到達することができました。
その場所へ立った時私たち3人の前には、自分たちの目を疑うほどに信じられない光景が広がっていました。

リュウキュウセッコク (Eria luchuensis, Eria ovata)

沖縄県以南の樹木などに着生し、夏に淡いクリーム色の小花を多数咲かせる。和名にはセッコクと付いていますが、セッコク(デンドロビューム)の仲間ではなく、オサランの仲間 (エリア)。
日本産の着生ランとしては、大型で長さ10~30センチの長いバルブを複数本もつ。 姿は川沿い (沢沿い) など、暗いところに自生する株は、バルブは長く伸び、時にはその重さのため、だらりと垂れ下がり、反対に日が良く当たるところに生えている株では、着生する場所にもよるが、しっかりとしまった太めのバルブを直立または、斜上させて自生しています。

私たちがそこで目にしたものは…??

私たちの目の前には、ドロ水をかき回したようなぬかるんだ小さな沼が。そのぬかるみの中に10メートルはある大木が、まるでデイダラボッチに引き抜かれたかのように倒れ横たわっていました。よく見るとその大木のほぼ全体に、おびただしい数のまるまると太った姿のリュウキュウセッコクの巨大株がビッシリと着生していたのです (現在リュウキュウセッコクは国内では600株程度しか自生していないと言われている希少なランです)。先端でも直径50cmを優に超えるほど太い幹は、そのランが着生したままの状態 (枝に着いたままの状態) で湿り気のある土手につきささっていました。 不幸にも倒れた時に幹の下敷きになってしまった株たちは、その重さでつぶされたあげくドロの中に押し込まれてしまい私たちにはどうすることもできません。 運よく倒れた時に下敷きにならず、つぶれなかった株も大木に着いたままドロ水の中に水没していました。

私とリュウキュウセッコク
私と同級生の西尾君

倒れた大木の枝葉や、着生するリュウキュウセッコクの葉とバルブの様子 (状態)、その他にもドロ水の淀み具合等から推測すると、まだ倒れてから2、3日しか経過していないようです。状況から推測してその木がある場所は地盤がゆるいだけでなく、あまりにも多くのリュウキュウセッコクが樹上で繁殖 (着生) してしまい、その重みのため自分を支えることができなくなり、根元からバッタリと倒れてしまったようです。ちなみにこの木に着生していたリュウキュウセッコクは重さにして1tくらいはあったのではないかと思われます。

※ このように着生するランの重さで大木そのものが倒れてしまうことは非常にまれですが着生主の繁殖力が旺盛でその重みが主因となり枝が折れる程度のことは自然界では時々起こる現象 (注: 人が遭遇することは稀) です。私は過去にセッコクとヘツカランでそのような場面に遭遇したことが何度かあります。

私たちが、枝ごと土手にささって、土の中に埋まっている株をなんとか掘り出そうと必死に泥をかき分けていると、指先の方になにか? 黒っぽい生き物が動きました。その姿を見た時私は驚きのあまり思わず大声をあげてしまいました。

「サソリだ!!」

なんと、この時かきわけている土の中からサソリがでてきたのです。実は八重山に生息するサソリは毒性が弱く刺されても心配はないのですが、なにぶんにもはじめての経験でしたので…。

こんなサソリだったと思う

そういうわけで着生ランを泥の中から掘り出すというたぐいまれな経験をした私たちでしたが、あたりが暗くなる頃には、そこから少し下ったところの苔むした谷間にテントをはり一夜を過ごしました。あれから30数年、かわいそうですがあの時のリュウキュウセッコクたちは今頃は朽ち果てて西表島の土に還っていることでしょう。


コラム筆者: 山本裕之

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