初めての利島 植物プランクトンたっぷりご飯のお味は?

伊豆七島の三宅、御蔵、八丈、新島の4島には、ラン探しの目的で今までに30回ほど通っていた私ですが、利島はハシケ(渡し船)を使わなければ上陸できないため、まだ行ったことがありませんでした。

当時の利島には大型船が着岸出来る港はなく、天気の良い時しか乗り降りすることが出来ません。私は一つ先の新島へ行く際、島の沖合いに停泊した船の中から人を乗せるためのハシケが迎えに来る様子をときおり眺めていましたが、乗り降りする人はほとんどいませんでした。ニオイエビネの自生する新島から利島までは目と鼻の先です。そのため、「もしかしたらここにもあるかもしれない。確かめたい。」とずっと思っていました。卒業して数年がたった頃のことです。一人では寂しいと思い、まだ学生だった小川君を道連れにして念願の利島へ向け出発です。

夜、東京竹芝桟橋を出港したカメリア丸は翌早朝には伊豆大島の元町港へと入港しました。そこから私たちは村営船としま丸に乗船するため、バスに乗って左回りで島の南部のたびたび歌などにも登場するほど有名な波浮の港へと向かいました。途中、車窓から見える岩場の海には、ブダイでしょうか、きれいな青色をした大きな魚の姿が時折見えました。 そうこうしているうちに島の南側にある小さな入り江、波浮港に到着しました。そこから村営船としま丸は私たちを乗せ、目的地の利島へ向け出港しました。

夏休みにもかかわらず、この船には島へ観光で訪れる客が一人もいないようでした。私たちの他に乗っているのは慣れた様子の島の子供達だけでした。島へ着きすぐに集落の中の細道を通り、山の上を目指してじゃり道を二時間ほど歩くと、左方にはコンクリート造りの廃墟がありました。今晩はこの廃墟に寝泊まりすると決めた私たちは、荷物を置くとすぐに山頂へと急ぎました。

しばらく進み、本道から左へと別れた細道を行くと、頭上高くの木の枝にちらほらとセッコクが着生しているのが見えました。そこからさらに進み山頂近くまで来ると手が届くぐらい低いところにもたくさんのセッコクがありましたが、目的のエビネは一本もみつかりません。日も傾くころ、私たちは宿と決めた廃墟へと戻りました。今日、山中を歩き回り初めて気がついたことですが、この山には水が一滴もありません。わずかな飲み水しか持っていなかった私たちには米を炊くための水はありません。どうしようかと散々考えた末、覚悟を決め、目の前の金魚が泳ぐ濃い緑色をした池の水を使い米を炊くことにしました。1時間後、植物プランクトンたっぷり栄養満点?クロレラご飯が完成。ふたを開けた瞬間のとても不気味な臭いと、うす茶色をしたご飯に、「ホントに食うのかこれ?」と思わず二人で顔を見合わせたことを覚えています。 これを3日間で計4回食べた私達ですが、今でも元気にしています。

後になって知ったことですが、伊豆七島には水にまつわる神話があります。

むかしむかし、伊豆の七島が作られたばかりの頃です。七島の中心近くにある神津島に 島々の神々が集まり水の配分についての話し合いをして、「翌日、早いもの順に水をあげよう」ということになりました。次の日になり、早起きして一番でやって来たのは御蔵島の神様です。その ため御蔵島には豊富に水があり困ることはありません。二番目に着いたのは新島の神様でここも水に不自由しません。ついで八丈島、三宅島、大島、と続いて到着し、寝坊して最後、利島の神様が来たときには、各島の神様たちがほとんど持ち帰った後。腹を立てた利島の神様は、わずかに残る泥水の中で大暴れ!そのため、おおもとの神津島には飛び散った水があちこちにあり、利島の取り分はなくなってしまいました。

…というお話です。なるほど、水が少ない理由がわかりました。 ちなみに、まる三日間、山中藪の中を捜し歩いたのですが、ニオイ系のエビネは一本もありませんでした。 この島でいっぱい見つけたのはセッコクとシマササバラン 、シュスランの仲間達でした。


コラム筆者:山本裕之

イラスト:M.Tajima

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