千葉県の里山にて [1] 1988年 文:小川豊明

大学を卒業した私は、千葉県の農業高校の教員になっていました。学校回りの山に入ったり、蘭の栽培をしたりしていた私を見て、興味を示した生徒がいました。その生徒は拳法部の3年生穴沢君、しばらくすると一緒に山巡りをするようになりました。私が千葉県の蘭について話をすると、彼の田舎は天津小湊町の山の中で、近くには変わった蘭があると言っていました。小湊の山は私が学生時代より良く通った山であり、山の中の近道や、沢、尾根など人目も気にしないで歩き回ったところでもあります。5月の休日にその田舎に行く事になり、道案内をしてもらい山へ行くと・・・、なんとその家は今まで何度もその横をとっていた見慣れた家でありました。大きな寺の参道脇で庭の片隅にはアワチドリ、ナツエビネ、セッコク、そして大きな固まりのフウランが栽培されていました。蘭の写真家 いずみえいこ さんも来られたようで、写真集の1ページにある楠木に着生したセッコクはあの木!と説明して頂きました。そしていよいよ山の中に入っていくと、ありましたクマガイソウの群落です、遊歩道から少し入ったところにその蘭はありました。すこし満開は過ぎていましたが、何輪もの花を付けていました。山の中でこんな花に遭うと心が明るくなります。そして沢すじを下りていくと大きな杉のたもとにナツエビネが銀色に光る葉を広げていました昨年種を着けたらしく、カラカラの花茎がツンと立っていました。ナツエビネの遥か上、杉の梢にはカシノキランがしがみついていました。比較的明るい場所にはジエビネやサイハイランあり、まだ5月だというのにシュンランは大きな種を膨らませていました。

その日の帰り道、勝浦の国道沿いで良い感じの所があったので、休憩がてら山に入ってみると、ここにもナツエビネがありました。そして小さいながらナギランやミヤマウズラの葉も顔をのぞかせていました。千葉県でナツエビネを見たのはこの辺が北限ではないでしょうか?


コラム筆者: 小川豊明

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