巨大ナゴランの棲む杜 文:山田清隆

自生地をよく知っている同級生の西尾君と山本君から何度かきいていました。「伊豆七島のナゴランには大型のものが多い」と。 2人が言うには、以前ニオイ系エビネを探しに行った時に超巨大ナゴランがたくさんある森を偶然に見つけたというのです。

私は山本君に誘われるがままに伊豆七島、新島の一部にあるという日本で最も大型のナゴランの自生地を、開花の時期にあわせて見に行くことになったのです。

1979年、私が大学3年生の初夏のことです。 黒根の港から徒歩で約1時間のところにあるキャンプ場の草むらに、テント、荷物一式を隠すとすぐに巨大ナゴランがたくさん自生する山へと向かいました。

息を切らせながら急斜面を登り森に入り、尾根伝いに奥へ歩くこと10分くらいのところで、地上2~3メートルくらいの高さの横枝に5~6株のナゴランが並ぶように着いているのが目にとまりました。話には聞いていましたが確かに大きい!今まで他で見てきたものよりかなりでかいナゴランです。 ふと横を見るとタブの木?の大木にはこれまた特大株!! 「こんなに巨大なナゴラン、今まで見たことない!スゲーー!」 なんと葉は一枚の長さが20センチくらい、しかも数は10枚以上もあるのです。

木々の枝葉をかきわけながら更に奥のやぶの中へと進んでいくと、目の前にはあっちもこっちも向うの枝にも木々のいたるところにやたらとナゴランの巨大株が着いていたのです。そのどれもが今までに見たことのないくらいジャンボです。驚いたことにその多くが地面から2~3メートルと信じられないくらい低い場所に着いているのです。

一番大きい株は一枚の葉長が20センチを超えるくらいの大きさがあり、両スパンで約30センチ、大きめのバナナの皮が15~16枚重なり合うような葉をもつ巨大なやつです。 その姿はまさしくみんなが知っているコチョウランそのものでした。だらりと下垂させた2本の花茎にはつぼみも含めて50輪くらいの花をつけているのです。

ナゴラン
ナゴラン

ちょうど目の高さくらいに咲く花に顔を近づけた瞬間。脳天までぬけるような、あ~~~いいかほり…。ナイスフレグランス!そこにはコチョウランのように巨大なナゴランがいっぱい咲く山の中で大興奮する私がいました。

こうして巨大ナゴランが棲む森を思う存分堪能した私たち。その日の午後はコオズエビネがたくさん生える山へと移動することにしたのですが…そこで想像していなかった衝撃の事態が!?

山本君の案内で、昔から知っているかほりの良いエビネがたくさん生えている谷を目指して歩くこと一時間あまり、その場所近くまで来たとき、 「あれ?エビネがない!どうして?なんで一本もないの!?前回来たときにはどこもエビネだらけだったのに、あんなにたくさんのエビネを誰が採ったのだろう?」 私を案内する山本君の口からため息のように落胆する声が漏れたのです。

その後二人でエビネを探すため何時間も山中を歩き回ったのですが薄い葉をした小さな株(地エビネ?)が何本か見つかった程度で、どうやら短期間のうちに何万本という数のかほりのあるエビネは全て、それも根こそぎ採られてしまったようです。

この日以降、大学の仲間達も伊豆七島の新島へ行くことはないようです。


コラム筆者:山田清隆

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