想ひ出の八重山諸島 ラン探索記 文:南條洋介

若かりし頃の私

南西諸島以南に生息する毒ヘビで動きがとても俊敏なため、地元ではとても恐れられている。全長は1~1.5m程度。長いもので2m。また体色によって金、銀、黒に区別される。患部は咬まれた直後から細胞組織の破壊が始まり、大きく腫れ激痛を伴う。毒はゆっくりじわじわと組織を破壊しながら全身に回り、年に何人も亡くなっているとのこと。

大学の図書館でハブについて調べた私は「こんな毒蛇がいるジャングルに本当に自分がいくのか・・・」と思うともう恐ろしくて仕方ありませんでした。山本さん,西尾さん両先輩の卒業記念として決行される南西諸島に稀少なランを求める探検の旅に私も同行することとなったのです。

こんな猛毒蛇がいるジャングルに行っても本当に大丈夫なんだろうか? かなり不安な私です。

「台湾には、百歩蛇 (ひゃっぽだ) という毒蛇がいて咬まれると百歩も歩かないうちに死んじゃうんだってよ。それに比べればたいしたことないよ!」(山本さん)

それから2週間後、八重山の山中には太ももまで隠れる登山靴を履き、ハブをよけるための木の棒を座頭市のように振り回しながらラン探しをするため藪漕ぎしている私の姿がありました。

しかし八重山に着いてジャングルに分け入る事2日目には、これから始まるテント生活のために担いでいた寝袋(シュラフ)が消えていました。どこで落としたのかも全く分からず、これからの40日間寝袋なしで過ごすのかと思うと泣きたくなりました。実際その後約40日もの間寝袋無しで夜を過ごすこととなりました。

初日から大失態の私でしたが,目の前を走り抜けるイリオモテヤマネコや、リュウキュウセッコクの大群生など見たことのない光景に胸が躍りました。しかしそんな胸踊る瞬間も長くはもちませんでした。なんとサソリと遭遇してしまったのです。今までテレビや動物園でしか見たことのなかったサソリとの遭遇は衝撃的でした。さらに気がつくと身体のあちこちから血が!シャツをめくってみると私の血をたんまりと吸ってまんまると太ったヤマビルが何匹も吸血していました・・・。ハブだけじゃなくサソリやヒルまで出てくるとは思ってもいませんでした。

ハブにサソリ、ヒルなど恐ろしい生き物の巣窟に思えた八重山でしたが,2週間ほどの探索で樹上高くに憧れのクスクスランの姿を見つけたり,葉の裏が濃い紫でとても美しいモノドラカンアオイ、コミダケカンアオイなどの西表島固有の植物をたくさん確認できたころには、宝探しのようなわくわくする気持ちでいっぱいで『ハブ』への恐怖心は忘れていました。

私と山本氏 1
私と山本氏とリュウキュウセッコク

私が感じた八重山諸島は想像を絶するようなジャングルでした。季節によっては南十字星 (沖縄では「はいむるぶし」といって南十字星は特別な星とされています) も見ることができます。そこには、『カメレオンのような緑色のキノボリトカゲ』や,動きがとてもすばやく,すぐにナリヤランの草叢に逃げてしまう『尻尾しか見れないオオトカゲ』、『ポンポンと鳴くカエル』など愉快な生き物が沢山棲んでいました。

一番不思議な生き物は(生き物たちというべきか)夜遅くに聞こえてくる奇妙な鳴き声の主です。

夜テントで過ごしていると遠くの森の奥から「ホホウ」というフクロウのような鳴き声、その声とは違う方角から返事をするように「ニャン」という鳴き声が必ず対になって聞こえてくるのです。「ホホウ」・・・・「ニャン」・・・・「ホホウ」・・・・「ニャン」・・・「ポンポンポンポン」・・・こうして秘境の夜は更けて行きました。

あるときは夢のような出来事もありました。陽のとっぷり暮れた海に近いガジュマルのジャングルを歩いていたとき、突然ふと誰かが「こんなところでホタルでも見れたら幻想的だよな~」とつぶやいて間もなく、クリスマスツリーのように輝いている木が目の前に現れたのです。近づいてみると、その光の正体は枝に泊まっている沢山の蛍の光でした。石垣島や西表島には『春に光る蛍、ヤエヤマヒメボタル』が棲んでいたのです。そして、ある日のことです。縦走路の中程で林床にキバナシュスランの生える斜面を進む私たちのすぐわきにうす茶色の蛇が。とぐろを巻いて今にも飛びかかってきそうなその蛇は『サキシマハブ』でした。「とうとうお出ましか・・・」一瞬のできごとだったのでその時は恐ろしさは感じませんでしたが、その日から一層木の棒をもつ手に力が入るようになりました。

 その後、ユースホステル (みどり荘) でたまった垢を落とし、西尾さんは卒業式に出席するために帰途につき山本さん(卒業式は??)と山崎君、私の三人は徳之島・奄美大島へと向かったのでした。

そこには想像を絶する恐怖体験が待っているのでした・・・。


コラム筆者: 南條洋介

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