タヌキに化かされて

私は昔タヌキに化かされたことがある、と言っても皆さんは信じないでしょうね。 私もタヌキが人を化かすなんてことがあるわけないだろうと思っていました。 あのことが起きるまでは…。

私がまだ20代だった12月の事です。 野生ラン研究会の後輩の那須君とヘツカランを探しに鹿児島県大隅半島を訪れました。 ヘツカランの和名の由来となった集落佐多辺塚を夕刻に出発した私たちは、内之浦方面まで早く抜けようと、薄暗い山道を森の奥へと進んでいきました。 この林道は急峻な谷を何本も越えなければならず、崖崩れなど危険な箇所も多い酷い悪路で、普段は山仕事をする人と釣り人がたまに利用する程度で、一般車はめったに通ることはありません。

日が暮れ薄暗い中車を走らせていると、車一台がやっと通れるかどうかというような狭いところが私たちの前に現れました。そこは今にも崩れそうな路肩を頼りない丸太で補強しており、本当に車で通れるかどうかいささか不安がよぎります。確認のため車を降りると、ふと道端に一匹の横たわったタヌキが目に入りました。

写真はイメージです

♪あんたがたどこさ 肥後さ 肥後どこさ 熊本さ 熊本どこさ 船場さ 船場山には狸がおってさ それを猟師が鉄砲で撃ってさ 煮てさ 焼いてさ 食ってさ それを木の葉でちょいとかぶせ♪

なぜか子供の頃に聴いたこの歌が頭に浮かんだ私は、歌にある通り「これ食っちゃおうかな?」という衝動にかられ、つま先でタヌキをツンツンツツンのツンツンツン。 その時、谷の上の方からガサゴソという大きな物音が聞こえました。猟師が仕留めて一時的にここに置いたのかなと思い、後ろ髪引かれる思いでタヌキをそのままにし車に乗り込みました。その危険な場所は、那須君に誘導してもらいながらなんとか無事通ることができました。

薄暗い中、早く内之浦まで行こうと車を走らせました。 そこから4~5km進んだところまでくると大きな岩が林道を塞いでいて、これ以上先へ進むことが出来なくなってしまいました。仕方がなく私たちは、暗闇の中、今来た道を引き返すことにしました。

先ほどやっとで通過した狭い橋からおちてしまっては大変とかなり注意をはらいながらすすみました。

ところがです。

行きに通った崩れそうなあの場所もなければタヌキの死骸にも気づかないまま佐田辺塚の集落までついてしまったのです。あんなにも危ない場所を何事もなく気づかないまま通れたのか不思議でなりません。 もしかしたらあの時体験した全てのできことはあのタヌキの仕業だったのかもしれませんね。


コラム筆者:山本裕之

「野生のランに魅せられて」へ戻る

「自然人のコラム」へ戻る

ホームへ戻る