本当にあった怖い話 [8] 小笠原母島編

石門方面から乳房山を臨む

1977年、私がまだ大学一年生だった頃、神津、大森、小清水さんら、3人の先輩に連れられて小笠原諸島の母島を初めて訪れた時のことです。母島の港で船を降りた私達は、その足で、島の北東部を目指して散策しながら4~5時間歩くと、道は森の中へと進みその先はくねくねと曲がりながら下る急坂です。ふと上方を見上げると頭上にオガサワラシコウランがぐるぐるに巻きつく2本の桑の木を見つけ、このあたりで散々遊びました。

シコウラン

その後、森を抜けたところの大きく開けた場所が猪熊谷です。そこから石門山へと向かう登山道を少し登ったところに、この付近で唯一の水場があります。私たちはこの場所にテントをはり、数日間を過ごしました。

石門山方面から東崎を臨む

2日目の夜10時頃のことです。テントの外で話をしている私たちの方へ向かって、遠くから誰かが歩いてくる足音が聞こえてきました。ここは一番近い民家まで10kmほど離れており、歩くと4~5時間はかかるほどの山奥です。誰もいないはずの、人里とは反対方向のジャングルの奥から誰かが近づいてくる足音が聞こえてくるのです。ガサッ…ガサッ…ガサッ…ゴソッ…という音は一歩一歩落ち葉を踏みしめるようにして私たちがいるすぐ脇まで近づいてきました。それはまるで軍服を着て革靴を履いた兵隊が近づいてくるような足音に聞こえました。すぐに懐中電灯を手にした二人が慌てて音のする方向を照らしましたが、そこには何の姿もなく、物音もピタリと聞こえなくなりました。しかしあれは間違いなく山の奥から誰かがこちらに近づいてくる足音でした。

ちなみに、父島には野生のヤギがいますが、この母島にはガサガサと音を立てるような大きな動物はいません。それ以降、私達はここを幽霊谷と呼んでいます。 最近になり、コラムの原稿を書くために、母島の写真つきの地図を調べ見ていました。すると、そこにお墓がポツリと一つありました。

聞いた話では、ちょうどそのあたりの場所で林道の拡幅工事中に運転手を乗せたパワーショベルが谷底へと転落し、命を落としたそうです。なんだかゾッとしましたが、それはまさしくあの得体のしれない足音をきいたその場所でした。40年が経過した今でも理解できず不思議に感じています。

幽霊?が写り込んだ決定的1枚(写真右の神津さんは喫煙中)
オガサワラカラスバト もしかして、この鳥は100年前に絶滅したといわれているオガサワラカラスバト !?(小笠原にて)


コラム筆者:山本裕之

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