アワチドリヲサガセ 2015年6月27日 文:小川豊明

千葉県人ですが、実は私、アワチドリの自生を見たことがありません。 昭和の50年代の頃、近くの本屋さんに「らん」という写真雑誌がありました。 植物好きな私は、小遣いを貯めて季節ごとに発刊されるその本が、楽しみでなりませんでした。その中に読者のページがあり、日本各地の蘭発見記が掲載されていました。その記事の中に千葉県山本氏の書かれた「あわちどり発見記」がありました。蘭好きの少年がバイクを飛ばし千葉県の房総丘陵一帯を、アワチドリを探しに冒険をして、とうとう発見したという内容でした。千葉県の旧国名が着いた蘭なので見てみたいと思っていましたが、その自生地は少なく、またその数も大変少ないという物で、尚かつ崖に生える・・・。私には無理と思い、長いことあきらめていました。大学へ進学すると、山本氏とは、大学の先輩であり、現在の「蘭裕園」社長さんでした。現在たくさんのアワチドリやエビネを生産されており。特にアワチドリ・交配種のゆめちどりの生産では、特記するものがあります。さて、最近になって、このコラム原稿を書いていていると、なぜまだ自生のたくさんあった頃に探さなかったのだろうと思うようになりました。現在では自生しているアワチドリを見ることはまず無理でしょう。30年ほど前、6月になると、山菜採りのグループが崖から落ちて死亡事故なんて言うのがありました。実はアワチドリをはじめ蘭を採取するためだろうと思います。当時1本数千円で取引されていたようで、山草趣味というよりも、「山から金が出る」というように採取されていたようです。そして山の蘭はほとんど見ることが出来なくなったそうです。

私はぜひこの蘭、アワチドリの自生が見たくなりました、昔の文献を引っ張り出し、よく産地として名前の載っていた地域を探し出し、車を走らせる様になりました。しかし簡単に探せる物ではありません。学生時代に行ったことがある山でも、山が荒れているところが多く、道がなかったり、山そのものが山砂の採取で無くなっているなんていう事になっていました。若い頃渡れた沢が渡れなかったり、イノシシに出くわしたり、散々でした。 仕事をさぼって、山に通うこと8日目、人づてに聞いたある山で、ようやくその花に出会えることが出来ました。それはとんでもなく高い岩棚の上、日中ガンガンに陽の当たるところにススキと共にありました。昔は岩がピンク色になるところがあったらしいが、私が見たこの株は人の目から隠れる様に花を咲かせていました。後にも先にもこの一株だけ !

いつまでも千葉の大地で花を咲かせてくれることを祈って、超望遠で撮影しました。 事件をひとつ、大きな岩に張り付いて三脚を無理無理伸ばして写真を撮っていたところ、足下が不安定になって、ズルッツ!三脚とカメラを崖の下に落としてしまい、カラン、バコン、グオン、クラッシュしてしまいました。 約2時間をかけて崖下に降り、捜索作業、レンズはダメ、データーカードのみを回収して来たといういわく付きの写真です。おまけにクツの中には大量のヤマビルが入り込み、写真の代償は高くつきました。

イワタバコ

コラム筆者:小川豊明

「野生のランに魅せられて」へ戻る

「自然人のコラム」へ戻る

ホームへ戻る