昭和53年 ウチョウラン探索記 文:関明彦

昭和52年(1977年)誠文堂新光社から、東京農大の大先輩 鈴木吉五郎氏の名著「野生ランの栽培」が発行されました。内容が多岐に亘り、日本産野生蘭の面白さに開花した小生たちは欣喜雀躍したものでした。この著書の中で、特に目を引いたのがウチョウランでした。岩棚に、可憐に咲く自生地の写真を見て、是非自生地を見たいとの衝動にかられたものでした。

栃木県出身の同級生からの情報で、鹿沼市に自生地があるとのこと。昭和53年(1978年)6月、野性蘭研究会の広川氏と探索に出かけました。東武浅草駅から日光線で新鹿沼駅下車、そこから路線バスに乗り目的の場所まで移動。バス停から見ると、山の頂上付近に白い岩場とその上に黒松らしき植物が見えました。岩場までの杉林の中を、ただひたすら直登。傾斜がきつく、青息吐息で約30分岩場の直下に到着。上を眺めてみると、岩場の中腹に紫色の蘭が咲いているのが遠望出来ました。取敢えず近くまで行こうと、岩場に取り付きロッククライミングの経験などありませんが、3点確保を実践しノロノロと登り始めました。

やっとの思いで、岩の隙間に紫色の花を咲せたウチョウランに対面することが出来ました。 ウチョウランは植物体と比べて花が大きく、頭でっかちで岩棚から下垂する様に咲いていました。岩棚には極少量の培土しか無く、上部に生えて居る黒松の落ち葉が腐葉土になるぐらいの養分に乏しい培土に見えました。少量培地と岩棚で排水性は抜群な条件に生育しておりました。

ふと、上を見上げると頂上付近の黒松の根元にあるウチョウランの花色がやけに濃色に見えました。無我夢中で岩場を登り、やっと辿り着いてみると、夜目遠目傘の内ではありませんが、普通花でした。がっかりして、下を見ると樹齢50年程度の杉の木が小さく見え、足がすくんでしまいましたが、下る事が出来ず必死の思いで頂上に辿り着いた次第です。

ウチョウラン
ウチョウラン

やっとの思いで岩場を降りて、杉林を散策していると、苔むした一枚岩に1枚葉のウチョウランの実生がびっしりと着生していました。ろくに日もあたらず湿度が高い状況で、開花株との生育条件に違いにびっくりしましたが、発芽条件について大いに参考になりました。春蘭の株元に播く、鉢播き方も理にかなっていると気が付いたのは、随分時間が経ってからでした。

命綱も付けない、フリークライミングです。今から思うとクライミング技術も無い中、無事に下山出来たのが不思議な位の状況でした。


コラム筆者:関明彦

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