本当にあった怖い話 [3] 恐怖!ニオイエビネの呪い?

1978年 春

農大に入学して2年目の4月のことです。私は一人伊豆七島新島へニオイエビネ系交雑群コオズの花を見にやってきました。この島のエビネの自生地は起伏にとみ、小さな山と谷とが複雑に入り組み、各々の谷ごとにタイプの異なるエビネ集団が自生していました。この谷はほとんどが赤茶系、一山超えるとカバ色系、さらに奥の谷は紫系と、谷ごとにそれぞれ違うタイプのコオズ系エビネが開花しています。

 エビネを探しながら林道から1時間ぐらい歩いたところでひときわ目立つきれいな赤ワイン色のエビネを一株みつけました。あまりのきれいさに我慢できずに開花した株を新芽から後3~4バルブのところで切り離すようにしていただきました。この個体はのちに私がワインと名付け、数奇な運命をたどった個体エビネです。(なんと私が山に残してきたバックバルブから再生した株を数年後別の方が採取し、同個体が静岡からも出現したのです。まあ、それはおいといて。)

この場所から少し奥に進むと、山中に転がる大岩の上にローズピンク、濃いムラサキなど強い香りをはなって開花するニオイエビネ?があちこちに点々と見られました。ここでも濃いムラサキ色とローズピンクの個体を数本いただいたのですが、他にも綺麗なエビネがないものかと、しばらく山奥へと歩いたところでふと横を見ると、ポツリとひとつお墓が目に入りました。私はエビネをとってしまったうしろめたさからか、その瞬間、言葉には言い表せないくらいの寒気と例えようのない恐怖感を感じました。その墓には

山本裕之

と自分の名前が記されていたのです。私は恐怖のあまりふっとんで逃げるようにしてそこをあとにしました。 その後二度とこの近くへは行きませんが、いったいあれは何だったのでしょうか。いつか真実を確かめたいと思いつつも、それ以降そこを訪れることはありません。

その時みつけたうちの3個体には'青紫香'、'ワイン'、'アカコッコ'と名付け、後々まで楽しんでいました。


コラム筆者: 山本裕之

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