エビネの育て方を極める - 最先端のエビネ栽培法
春咲きエビネの栽培については、多くの参考書があり、またその他にもインターネット上などで個人によるいろいろな栽培の方法が紹介されています。しかし書かれている事がまちまちで、場合によっては人によりまったく逆のことが書かれていることもめずらしくありません。これでは初心者や経験の浅い人達がこれらを読み、参考にと考えても、誰を信じてよいのか、実際はどのような栽培が一番よいのかの判断がつかず、迷ってしまうことでしょう。残念ですが、エビネの性質を理解し、様々なパターンを想定し、楽しみ方や栽培方法を紹介するページはどこにも見当たりません。
このページでは、花好きの皆様がエビネを正確に理解し、立派なエビネに育てられるように簡単に説明します。
それではなぜ春咲きエビネの栽培方法が人によりここまで異なりわかりにくくしているのかを過去のブームから現在に至るまでの経緯と共に記していきます。
春咲きエビネの楽しみ方。過去から現在に至るまでの経緯
春咲きエビネは今から約30~40年前、山野草栽培の大ブームがあり、一般の人にも広く知られるようになりました。このときは山から採取してきたエビネを山野草の一つとして鉢や庭に植えて楽しむことが主流でした。また、珍しい個体ばかりを好んで収集し、特別な鉢に入れて、楽しむ人も多くいました。専門の業者により、東洋ランに倣うように〈和〉をうたいエビネ独特の価値観や鑑賞の仕方、また栽培方法も確立され、それに熱烈な収集家が同調する形で東洋ラン的な植物として、全国に広がっていきました。
同じ頃、数人の研究者らにより、エビネの園芸化を目的とした育種も行われるようになりました。やがて人工的に交配したエビネがあちらこちらで咲いてくると、研究者以外でも (自分も交配し) 種まきをして、エビネを作り始める人たちが爆発的に増えました。こうして今では人工作出があたりまえとなり、現在では改良の進んだ花卉へと成長しています。
しかし残念なことに、いまだに東洋ラン的な植物あるいは山野草として考えている方が殆どで、カラフルで綺麗なランとしてエビネ栽培を楽しんでいる人はそれほど多くありません (少数です)。
一方で、ヨーロッパを中心とした海外では、日本のとてもカラフルな春咲きガーデンオーキッド=庭植えできる蘭 (蘭裕園スタイル) の存在を知り、話題になっています。
楽しみ方 (鑑賞方法) の違いにより育て方も全く異なる春咲きエビネ
春咲きエビネを栽培するにあたり、まず知っておきたいことがあります。
私は春咲きエビネの楽しみ方を次の3つに分けて考えています。
1. 主に山野草や野生蘭として、庭植えあるいは鉢植えでまたは茶花として日本的な趣を楽しむ。
2. 主に珍しい個体を収集して、オモト鉢、観音鉢などを使用し、東洋ラン的、あるいは古典園芸植物的に和風で楽しむ。
3. 上記二つとは違い、洋風の鉢やプランター等、様々な器を使用。あるいはカラフルで華やかなガーデンオーキッド (庭植えできる蘭) や、また、綺麗な切り花として、自由に楽しむ。
このようにエビネの楽しみ方は幾つかありますが、自分がどのようなスタイルでエビネを楽しみたいのか、その他目的によっても植え替えの適期や光の当て方、肥料の与える時期など、その他多くの事柄も違ってきます。
残念ながら以前に書かれた参考書をそのまま引用したと思われる物や、あるいは経験不足の為 (?) か上記の3パターンを理解せずに一括りにしているため、栽培の仕方もつじづまが合わないものも多く、各人により全く違う考えの下、解説がなされているのが実情です。これでは初心者には訳が分からず、上手に育てられないのは当然でしょう。
ここでは元気でたくさんの花を咲かせる丈夫な株作りを目的とした春咲きエビネ最新栽培法を要点のみ解説します。
より詳しく知りたい方は蘭裕園ホームページの 年間の管理・株分け・エビネ自生地から学ぶ・近年に多い障害と対策、他も参考にしてください。
原種エビネを購入する際に気を付けなくてはいけないこと
専門の業者が増殖した健康状態の良い株であれば、大きな問題は生じません。しかし残念なことにジエビネ・キエビネ・サルメンエビネなど流通している原種春咲きエビネの多くが古葉が切り取られ、芽だけの状態にされ、粗悪な用土で植えて売られていることがよくあり、多くの問題が生じています。このような場合は、新芽の傷みや、株元のぐらつき、あるいは病気の有無など健康状態を自分で確認する必要があります。
例えば、サルメンエビネの場合、販売品の多くが山から採取したばかりと思われる株が大量に流通し、また、栽培品ではウイルス病に侵された株も多くみられます。他の原種でも大なり小なり同様のことが起きています。
学者やエビネ専門家の間では、山からの採取による問題と、病株の拡散の2つの点で大きな問題になっています。
このようなことから、原種を購入する際には新芽の傷みや、株元のぐらつき、あるいは病気の有無などを確認するだけではなく、自然保護の観点からこれ以上の採取を避けるため、山採り株と思われるエビネの購入はなるべく避けて頂くことをおねがいします。また、変化が少なく、育てる人も少ない原種をわざわざ大きく取り上げて、その結果山からの採取を助長してしまうことが無いように扱う側、メディア側も気を付けなければいけません。日本の自然が長い年月をかけ、育んできた原種のエビネ達がこれからも絶えることなく山の中で生き続けられるように願っています。
来年も立派な花を咲かせるための管理
- 花が終わりしぼみはじめたら花茎を抜く。
- 花茎はねじるようにして引き抜く。
- 新芽 (新葉) はやわらかく傷つきやすいので、抜けないからといって揺すってはいけません。固くて抜けないときは、火であぶったハサミを使い、なるべく下の方で切り取ってください。
春咲きエビネは4月下旬頃になると新芽の中から現れたつぼみは下から上へと順次開花していきます。気温が低ければゆっくりと一花ずつ日数をかけ、暖かければ1週間も掛からず一気に上部まで咲きあがります。
根の良く張った春咲きエビネの場合、置き場所の環境や種類にもよりますが、条件が悪くない限り (乾燥・強光・高温は不可)、20~30日位のあいだ花を楽しむことができます。
その後下方の花がしおれてくる頃を目安に花茎を抜き取ります。そしてその後も切り花として楽しむこともできます。
しかし無理な株分けをするなどで、バックバルブおよび根の少ない株や暗い場所で育てられたひ弱な株などはパワーが無く、長い間咲かせておくと体力が消耗し、その後の生育を極度に悪化させてしまうこともあるため、早めに花茎を抜き取り、(※理由) 体力の回復を促します。
※理由
一般には知られていませんが、エビネは花のついた花茎が残っているあいだは新芽の成長が抑制されてしまいます。花茎を抜くことで新葉の伸長が促され、その結果、根の伸長も活発になり早期の回復が望めます。
植え替える
春咲きエビネの植え替えや株分けは花後 (5~6月) を適期とし、根鉢をもみほぐして行う。
と記されている参考書を目にすることがよくあります。初心者はこの言葉を鵜呑みにしてはいけません。
花後の植え替えは方法を間違えてしまうと、株をいじけさせ、その後の生育に悪影響を与えてしまうだけではなく、ウイルス病の感染リスクも高くなるため、気を付けてください。
以下に私の考え方を記します。
たとえば、ひ弱な株やビニールポットなどに仮植えされた株などの他、状態が良くない株に限って言えば、できるだけ早く新しい土に植え替え、良い環境下で育てるのが一番です。
これらとは反対に、根の張りが良好な鉢植えの上株では、鉢から株を抜いて根鉢をほぐさずにそのまま一回り大きい鉢に植えます。根が多い上株を植え替えしたことがある方なら知っていると思いますが、根の量が多く、根をほぐしてしまうと元の2倍くらいの大きさの鉢でないと植え付けは困難になります。
庭に植える場合も同様に、根のかたまりをほぐさないまま植えつけます。
どちらの場合も根は絶対にほぐさないようにしてください。
昔からエビネを育てている人の多くは、鉢いっぱいに根が回った最高の状態を見て、これを根がつまっていて悪い状態だと勘違いし、むりやり根をほぐし、大きな鉢に植え替えてしまうことが良くあります。このような植え替えをすることにより、翌年開花しないほど、作落ちさせてしまうことがよくあります。
また、植え替え後はすぐに肥料を施します。 →参考: 肥料の施し方
真夏を除き、いつでも行えなおかつ簡単な植え替え方法を2本の動画で紹介します。
→参考: エビネを庭で育てる
他に、
もありますので、参考にしてください。→参考: エビネの株分け
肥料の施し方
化学肥料は新芽の無い位置。あるいは、全体にバラまくように施します。
肥料の種類よっては、発生したばかりの新根を傷めてしまう可能性があるため、注意しましょう。
詳しくは 上手な肥料の施し方 を御覧ください。
エビネに合った環境で育てる
結論から言うと、日陰でも他の条件が悪くなければほどほどには育ちますが、葉が焼けない程度に明るい場所での栽培と比較すると生育ははるかに劣り、増殖率また着花数ともに低下します。
エビネの自生地から学ぶ でも記しましたが、エビネに限らず、日陰の植物と言われているうちのかなり多くの植物は本来は暗い場所 (日陰) よりもほどほどに光が当たる場所を好んでいると考えられます。
私の考えでは山野に下草として自生しているエビネの他、植物の多くは本来は日光を好んでいるけれど、上方は力のある大きな木々に常に占領されてしまい、小さな体しか持たない自分たちがそこで生活するために、葉を大きくし、生きていくのに必要な光量を確保できるように進化したと考えています。エビネに限らず多くの植物で言えることですが、自生地では最良の環境の下で自生していることは稀で、多くの場合は生き続けるための最小限の条件を満たした程度の場所で生活していることがほとんどです。
日当たりに限って言えばたとえば人間により木々が伐採されたり、あるいは強風や雷などで大木が倒れ一時的に通常よりも日当たりが良くなることがあります。そのような場所では、多くの下草たちが一気に育ち、たくさんの花を咲かせる草たちの素敵な花園が見られることが良くあります。
エビネでもほぼ同様なことが起こり、自生地で芽数の多くて立派な株がある場所は、多くの人が想像するよりもかなり明るい場所 (木々の間から間欠的に直射日光が当たる場所、明るい日中2~3時の直光がおちる場所、など) です。
より詳しくは エビネの自生地から学ぶ を参照してください。
風通しの良いところに植えると良く育つと聞きますが本当に大丈夫ですか?
エビネは年間を通し、適度な湿度を保ちながらゆるやかに風が流れるような場所を好みます。
かつては千葉県などの丘陵地では、たくさんの花を咲かせた大株があちらこちらで見られました。
自生地をよく観察してみると、多くは斜面上部の風通しの良い場所には、シュンランなどが多く見られるのに対し、エビネは風通しは緩やかで、湿気もほどほどに保てるような斜面の中から下方に多く自生していました。更に下方の水分が多いところにはサイハイランなどの姿も見られました。栽培するときも同様で、鉢植えの置き場所は強風が避けられ、地面に近い泥はねの避けられる程度に低い場所、地植えの場合も周りに家屋やブロック塀などがあり、強い風が吹き抜けることなく、緩やかに風が流れるくらいの木の下に植えると良く育ちます。
注意が必要な場所は道路に面した生垣の下など、周囲に風を遮るものがなく、風が通り抜けてしまうようなところです。このような場所に植えてしまうと湿度不足で葉傷みが起こり、上手に育てることが難しくなります。
近年は強い風が吹くことが多いため、風当たりの強い台の上に置いてしまい強風と乾燥で葉を傷めないように気を付けて下さい。適度な通風と湿度が保てる場所で下からの泥はねを避けるような工夫をすると良く育ちます。
エビネの栽培Q&A
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