ツンツン杉をだれがすき? ~ essay ~
僕たちが子供の頃、山は、驚くほど色とりどりだった。
シイやカシ、クスノキにタブノキ、ケヤキにモミジ。
大きさも形もまちまちで、緑の濃さも色々。
新芽の時期は、赤や茶色、時には黄色や白など、春のやわらかい日差しをあびてモクモクとみんなが繁り輝いていた。
そして、そこにはいきものを育む豊かな自然があふれていた。
でも、僕たちの成長に合わせるかのように、シイやカシ、クスノキたちは、かたっぱしから切り倒されていった。
その代わりに、たたんだ傘を空に向け、ツンツンと立てたような杉の木が植えられていったんだ。
僕には、若杉が立ち並ぶその光景は、まるで、緑の鋭いヤリを天に向かって突き立てているかのように見えた。
そのトゲトゲとした葉は、チクチクと痛くて、みんなすきじゃない。
そしてモクモクからツンツンへの変化は、そこに暮らしていた沢山のいきものたちを犠牲にして、日本中の山に広がっていったのだ。
僕たち子供らが遊び、そして学び、時に豊かな食べ物を与えてくれた恵みの森はこうして…日本からほとんど姿を消してしまったんだ。
杉たちは今でも、使われる事もなく荒れた山の中にツンツンと立っている。
いきものたちを追いやって、春には僕たちも泣かされて、ツンツンは、これからもツンツンと空を突き上げ続けるだろう。
人がつくったツンツン森は、いきものたちにやさしくない
そんな森だれが好きなんだろう
作 山本ひろし
編・絵 M.Tajima